写遊百珍

大阪国際メディア図書館「写真表現大学」研究ゼミ生&TA。各種講座のレポや、関西・東京の写真展、アート展示を特集。

【写真展】藤原昇平「東京オアシス」@大阪ニコンサロン

【写真展】藤原昇平「東京オアシス」@大阪ニコンサロン

住人の高齢化が進む「都営住宅戸山ハイツ」、そこに暮らす人々の姿を捉えた作品である。昭和の団地それ自身のポートレイトとも言えよう。

【会期】2019.11/7(木)~11/20(水)

 

 

この物件、新宿区にあるという。関西にべったり暮らしているので土地勘がなかったが、調べてみると山手線、新大久保駅高田馬場駅のちょうど中間あたり(山手線から少し東寄り、東京メトロ副都心線東新宿駅西早稲田駅の真ん中)に位置する。都会のど真ん中に35棟もの団地群が建ち並んでいるとは知らなかった。

団地探訪のWeb記事も散見されたが「老人と猫しかいない」「高齢化」「レトロ」との評で、もっと直截に言うと、それはレトロ・珍スポットとして無邪気に愛されている様子ではない。どこか都内のゲットー、限界集落的な扱いで、周囲から切り離され、影を帯びた場所、皆からは目の届かぬ独自の生活圏という雰囲気の描写が目についた。後は賃貸、中古マンションの紹介ページばかりだ。

さらにはこんな地元ソングも発掘された。どれだけ荒んでいるのか。まるで東の西成だ。


団地BackInTheDay /O2feat.ガッツa.k.aケツバット

格差や苦境に敏感な若手にHIPHOPで歌われるというのは相当な状況だ。なぜこんな場所があることを今まで気づかなかったのか…。まさに東新宿、新大久保あたりは、私が東京滞在時に真っ先に選択する安宿地帯である。普段からニアミスを繰り返してきたことになるわけだ。灯台下暗し。新宿にこんな郊外のような場所があるとは想像しないものだ。展示を鑑賞していた時点でも、「東京の埼玉寄りの方にあるのかな」と思い込んでいた(ちゃんと解説を読め)。

 

本展示はこうした「昼間っから爺さんがそこいらで酒飲んでてヤバい」「高齢化で孤独死がヤバい」みたいな風評、ややブラック寄りな扱いの「戸山ハイツ」を実直に、地道に取材し、撮影した、素顔のポートレイトとなっている。Web内に漂うゲットーめいたイメージに抗するように、「オアシス」のタイトルが光る。

そして写真は、明るく、優しい。

作者は戸山ハイツの厳しい現状について目を逸らさない。ギャラリーのカウンターで配布されているステートメントには、客観的事実としての戸山ハイツの歴史、高齢化・老朽化の現状、そして取材に際しての苦労話が記載されている。1945年にGHQの応急住宅として建設されたのが始まりで、70年代に中高層住宅へと生まれ変わり、そのころから低所得者の受け皿という位置付けがなされてきた。公営住宅の宿命でもある。

それでも70年代当時はモダンな鉄筋コンクリート物件として時代の真ん中にあり、子育て世代などで賑わっていたようだ。それも今では様相が大きく変わってしまっている。

団地は主に75歳以上の後期高齢者、障害者や障害者を子に持つ親、母子家庭の大きく3つのタイプの住民がメインになっている。家族や夫婦で暮らしている人は少ない。世代交代が進まないという。

それは3,300世帯、5,600人が生活し、高齢化率56%という、手に負えそうもない現実的数値となって立ち現れる。まるで日本列島の将来像だ。だが藤原氏は、マスコミなどで報じられる限界集落的なイメージの向こう側にある実の姿を、自分の眼で見たいと思い、訪問を決意する。それは同じくマスメディアの人間、地方紙の記者という属性ゆえの、本能的な嗅覚によるものかも知れない。

作者は取材を断られながらも戸山ハイツ通いを続けた。『撮影を断られ続け、不審者と勘違いされ、心は折れかけた。』の一文に苦闘と悔しさが滲む。そうして撮られた本作では、住人たちの個性豊かな自室のようす、笑顔、そして近隣どうしでの交流の姿が、明るさをもって捉えられている。

一点、取材のノートが見開きで展示されている。メモは記者の命だ。簡潔で分かりやすくまとめられている。展示では表れていないが、作品の裏には取材対象者一人一人の生活、人生、言葉が沢山あったことだろう。

展示前半は人物をそれぞれの自室内で撮り、広範では生活環境や暮らしぶりを記録する。さほど広くもない――むしろ狭い物件だが、個々人の体、好みに合わせて最適化された空間は実に多彩で豊かだ。

 

本作を観ていると、戸山ハイツにまつわる「限界集落」のイメージは遠退く。住人らの笑顔は、丹念な取材の賜物だと思う。無理だと思うことを敢えてやり通した者にしか撮れない写真だ。終盤のカット、おばあさんが水色の扉の向こうから顔だけ出して、こちらを見ている姿は、作者に「またおいでよ」と言っているようにしか見えない。作者の苦労は報われていると感じた。

 

( ´ - ` ) 完。