【科学】市民公開シンポジウム「生命を越えるもの 人工知能・ゲノム編集の衝撃」@グランフロント大阪
H30.2/12(月)13:30~17:00
これまで別個の技術話題として扱われてきたAI(人工知能)とゲノム編集という2大テーマの交錯するところをAI開発者、ゲノム編集者、ゲノム情報解析者、科学技術社会論者の4名が講演&来場者の質問に答えるという会。
このイラストとタイトルに惹かれてフラフラと聴講。これだけだと近未来はキメラの巣窟になるのかなとドキドキしますが、実際の話題はもっとずっと地に足のついたもので、別にヤマタノオロチやヘカトンケイルの世界ではなかった。
よくよく冷静に「科学技術=手段・手法」と考えれば、別段珍しくも怖くもない、シンプルに手続き論なのであった。
・人工知能 → 情報の分析&アウトプットのツールです。個別の案件に応じた受注&システム開発します。
・ゲノム編集 → 切らないといけないところを見つけ出して切ります。あっ最近切らなくてもよくなったよ。
・ゲノム情報解析 → 扱うデータ多いし電子1つ加味するだけで計算えらいことになるんでデータベース化やシミュレーションを効率化します
・ゲノム倫理 → 生命とか知性とか科学の恩恵って誰にとっての何なのか落ち着いて議論しましょう。
のはずだが、直接現場に携わらない一般民間人の悲しさよ、「AI」も「ゲノム編集」もどちらも人間世界を恣意的に望まないディストピアへ改変されてしまうような壮大な錯覚(※将来大きな事件が起きる可能性は否定できませんが)を抱きがちなので、まあそういうテーマタイトルになったのだと思う。
ゲストスピーカーが4者とも個性的かつ知性なのであった。
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講演1 | 「IBM Watson Healthと医療の世界」 |
溝上 敏文(日本アイ・ビー・エム株式会社ワトソン事業部ヘルスケア事業開発部長) | |
講演2 | 「新しいヒト化動物の創成―ゲノム編集の成果と展望」 |
真下 知士(大阪大学大学院医学系研究科准教授) | |
講演3 | 「ゲノム情報解析と機械学習」 |
浅井 潔(東京大学新領域創成科学研究科教授) | |
講演4 | 「人工知能、生命科学と社会」 |
江間 有沙(東京大学教養教育高度化機構特任講師) |
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先端的な専門分野を知のプロが速を上げて喋ってるので、以下は超断片メモとスクショ。(私にはわからんので議論とか疑問とか文句は受け付けません)
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(講演1)IBM Watson Health と医療の世界
・00年頃からクイズ番組「Jaopardy!」(ジェパディ)に勝てる人工知能を作らせてくれ、と社内で声があがり開発、2007年から4年かけて2011年には勝利。人間と違い、問題文の長さに左右されない。一方で人間と異なる判断をするので設問の意図を外れたデータベース検索で回答してミスるなど。
・NYメモリアルスローンケタリングから申し出があり、「Watson for Oncology」開発。がん診療のアルゴリズムを組み込み、電子カルテの文章を読み込んで自然言語&論文を学習、エビデンス(論文)の多い治療法を上位に提示する。
・それの創薬版が「Watson for Dragdiscovery」。毎年20万件のがん関連論文が出るのでそれを読み込み&抽出し、人間が気付かないパターンを提示→人間に「ひらめき」を与える。
・(適当な例:LCKで言うとT細胞受容体シグナルでもうじゃうじゃしててこれを人間が「病気Xに関するDNAは何処がどうあれであれか」試行錯誤するのは大変)
・1~2年前から日本の創薬企業も活用開始。
・「Qubit」(キュービット、量子ビット:従来方式は0と1→0と1とその重ね合わせをとれる)の考え方でコンピューター回路を制作中、やっと50個作れた。ただし精度との兼ね合い、現状では安定が1秒もたないのでローディング中も安定しない。
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(講演2)新しいヒト化動物の創成―ゲノム編集の成果と展望
・細胞(60兆個)→核→染色体→DNA(ヒストンによる折りたたみ状態)→遺伝子(アデニン、チミン、グアニン、シトシンの4種類の塩基)
・ゲノム=遺伝子(gene)と染色体(chromosome)の合成語。ある生物が持つ一組の全染色体の遺伝情報。体細胞は2セット、生殖細胞は1セットを有する。
・ヒトゲノム計画:文科省がMAP公開してるので、おうちにはってね
・ゲノム編集→ノックアウトマウス、肉付きのよい家畜・魚等で有名に
・「CRISPR/Cas9」(クリスパー・キャスナイン):ゲノム編集ツール
・元々、細菌等がウイルス感染を防ぐための免疫防御機構。侵入したウイルスのDNAを切断→取込→記憶→次にウイルスが来たらDNAのコピー(RNA)がID照合→Casタンパク質で無力化させる
・このシステムを改良、シンプル化・・・ガイドRNAと酵素Cas9をセットで扱う。ガイドRNAが目的のゲノムDNA上の塩基配列を情報照合し探し当て、Cas9がそこを切断
・特定の狙った遺伝子をカット(ノックアウト)したり、逆に別の遺伝子を組み込む
(ノックイン)ことが可能に →2013年から細胞や動物の遺伝子改良技術として活用
・ゲノム編集によって研究が抜本的に変化(受精卵にCRISPR/Cas9を入れる→妊娠させる=OK)・・・3~4か月で結果◎
⇔ 従来はES細胞で実験・・・結果出るのに1~2年
・技術が進歩、最近はより長くて大きいサイズのゲノム編集が可能に。
(→緑色蛍光タンパク質を有するラット(GFPラット)の作製)
・ゲノム編集医療の時代に。①患者の体外で遺伝子を改変 ②患者の体内で(ウイルスを運び屋にして遺伝子注入) ③受精卵による編集
・③は次世代に遺伝形質として継承される
・ということを阪大医学系研究科「ゲノム編集センター」は活用してゲノム編集医療の研究開発をやっていく(H28.12設立)
<★Link> 大阪大学医学系研究科 附属共同研ゲノム編集センター
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(講演3)「ゲノム情報解析と機械学習」
(ノーテキスト、浅井教授の速の高いトークゆえメモ不能のため断片を以下に)
・情報生命科学 ≒ 音声認識システム開発(隠れマルコフモデル / HMM)
・バイオインフォマティクス(生命情報科学)=DNA、RNA等の情報を情報科学や統計学で分析 ・・・機械学習による予測(大容量の計算が必要)←従来の生物学者の手法では困難
・遺伝子発見システム →確率モデルを応用、麹菌ゲノム解析
・機械学習(Machine Learning )・・・教師あり学習、教師なし学習
・全ゲノムシーケンス。何を言ってるのか全くわからん。
・ヒトゲノムにある2万数千個の遺伝子のうち、わずか数か所違うだけで骨格や筋肉、ルックス、はてはチンパンジーとの差異が生まれる。じゃあそれってどこがどう影響してるの
ネアンデルタール人の遺伝子を現代人は有しています。
・2R仮説。「脊椎動物では進化の初期段階で全ゲノムの重複が1回以上は起こり、その結果その後の脊椎動物ゲノムは資源ゲノムの多倍数体となっていると考える」なんのこっちゃ。
・二倍体、サブゲノム、メモったわりに意味がわからない。
・英語で書くと意味が分かるが、同意のことをひらがなで記述すると全く意味が分からない事例。
・構文解析で読みます。
・日本語って難儀ですね。意味が二重になりうる。
・三重にもなる。
・と言っても何かしら意味の取りようはある。この構文のパターンの考え方が遺伝子解析でも使える。
・AとCとGとTの4つの羅列のように見えて、必ず開始コドンと終始コドンがあります。それで挟み込めるパターンを探す。
・イントロンという無駄な箇所が多数。
・アルゴリズムが命で、機械学習の出番です。遺伝子領域予測します。これが音声認識の考え方と似ているらしい。
・冒頭の隠れマルコフモデルと話が繋がります。遺伝的アルゴリズムを応用したりして、まあ統一的なRNA配列情報解析アルゴリズムはないらしく、パターンに応じて最適なものを選んで使い分けましょうと。プレゼン資料を紙で配ってくれたらあとでじっくり読めるのに・・・。
・CentoidFold(セントロイドフォールド / RNA二次構造予測ソフトウェア)
・長い1本鎖のRNA分子が部分的に2本鎖(2重らせん構造)になり、「二次構造」をとることがポイント。
・何だかんだ言ってとても小さい世界の話なので(DNAらせん直径で2ナノメートル)、通常の観測の常識が通用しなくなってくる→予測の手法が重要。
なんだったか忘れました。
・ゲルマイクロドロップ技術。
・DBTLサイクル。
ここから秘匿化データ処理、暗号化技術の話になっていたようで、速が足りません。
手に負えない感じで終わりました。要点は、ゲノム解析にかかる手続きは機械学習で統計をやってる、という実験・研究者側の手法の問題です。
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(講義4)「人工知能、生命科学と社会」
・ここにきて「科学技術社会論」「AI倫理学」という文系の話が来たため、聴衆の救いになる。後のQ&Aコーナーでは江間氏に質問が多数寄せられたのも無理はない。浅井教授がハードコアすぎた(時間をかければ分かると思うが、圧倒的な速だったため)。
・AIR(AI&Society)社会どうなるんだろうという問いかけ、倫理的調和を研究。社会学、倫理学、哲学etc
・人工知能=「人間のような知性を持つような機械をつくる科学」
・AI=技術? であれば、ツール、道具
→効率化、最適解 ←「目的」「評価」:人間が行う(誰がどこまで)
・AI=科学?
・「The Next Rembrant」=「レンブラントが理解できた」「芸術」と言えるのか?
…「レンブラントっぽいもの」が出来た、とは言える。
・「Deep Dream」=ゴッホ? ←生成される世界は元々の画像データベース(動物の画像が主)に依拠する
・AIの範囲(江間氏の便宜上の分類)
①既存ICTの延長
・・・input→output。プログラム、ルール有。プライバシー、セキュリティ問題、格差(デバイド)、開発者の説明責任、制御可能性
②「学習」に焦点
・・・期待されている点。Deep Learning.
⇔アルゴリズムバイアス(社会の潜在的な不公平、差別、権力構造などを継承)ー検索結果等
・学習の中身がブラックボックス化しないか?
③「まだ見ぬ技術」
(①②と距離が大きい)
・・・自律、自我、意識を持つなどの可能性の議論
・自律型致死兵器(LAWS)など「まだ見ぬ技術」のリスク →議論開始
<アルゴリズムバイアスの例>
・Googleフォトアプリで「Gollira」タグ→黒人女性が表示
・「black baby」で画像検索→黒人の赤ん坊が表示
・「baby」で画像検索→白人の赤ん坊が表示
<AIがブラックユーモア>
・「AIと社会」に関するレポ→世界各国から ・・・人類に対するベネフィット(恩恵)を最大限にするような適切な開発と運用が大事 →なにが「ベネフィット」? →「倫理」や「価値」の再定義が必要
・「Partnership on AI」
・FLI(Future of Life)による「アシロマAI原則」(人工知能の開発に当たって、人々に役立ち豊かな生活となるために提唱された23の原則)
<★Link> AI Principles Japanese - Future of Life Institute
・総務省:AIネットワーク化推進会議
<★Link> 総務省|AIネットワーク社会推進会議|AIネットワーク社会推進会議
・IEEI(米国電気電子学会):倫理的に調和したデザイン
・官・民・国籍を問わず様々な組織、機関でガバナンス、コントロールの議論を開始(→倫理、人とは何かという問いかけ) ←文系が各種専門領域の橋渡し
ありがとうございました。
<個人的あれ>
・哲学、社会学による引き受けの可能性を得た
・一般民間人は実感がないだけで、企業、大学等の研究機関、各省庁間では既に相当具体的な議論を行っている
・テレビを見ていても全くだめ(見るとむしろだめ)←無知と空想の冗長化がひどい
・Webの科学、IT系サイトを定期巡回すればOK
・医療業界は最新テクノロジーと哲学的課題の宝庫
・AIもゲノムも大きな意味でツールであってオカルトではない
ただし特許、資本力による事実上の「私」の全情報的支配・管理はありうる
( ´ - ` ) らん。