【写真イベント】H30.8/30(土)出張bar カキシマ (柿島貴志)@BLOOM GALLERY
中目黒の写真専門ギャラリー「POETIC SCAPE」代表の柿島貴志 氏が、大阪十三のギャラリー「BLOOM GALLERY」で出張barを務めるという、謎の企画に行ってきました。
( ´ - ` ) 平成最後の夏の最後に。
要は「酒を飲みながら柿島さんのしゃべりを聴いて延々と談笑する」という愉快な夜会でした。バーテン柿島氏のお相手はBLOOM GALLERYの窪山氏。ギャラリストぶっちゃけトークで、お金の話がたくさん出ました。大人の夜です。
へらへらとトークを聴きながらへらへらとカクテルを舐め、へらへらと目の前のチョコレートとオリーブをついばんでいたら、2時間半があっという間に過ぎ去っていました。記憶も要点も特にありませんが、むりくり要点をまとめます。
(1)お金がない。
( ´ - ` ) おかねがない。
柿島氏「僕、儲かってるように見えるらしいんだけど」「ぜんっぜん儲ってないですよ」「儲かってそうだよね~って言われますけど」「お金ないですよ」 うへえ。
おかねがない。
まあ展示をやる度に持ち出しの方が多くなるということです。理由は固定費をペイするだけの売りが立たないから。
費用は、ギャラリーの家賃、光熱水費、額装代、スタッフ人件費などで、1回・1ヶ月間の展示で何十万円も出ていってしまう。この出費を、作品が1枚売れるごとに「チャリーン」「あっ1枚売れた、〇万円入った、」と少しずつ埋めていく感じでやっていく。なんか肝臓とか痛くなりそうな商売です。いたた。
まず数が売れない。日本は写真愛好家、カメラ愛好家がかなり多いわりに、写真作品を売買する文化がないですね。デパートで絵を買う人でも、写真は買いません。身近で絵を買うのが好きな人種を見てるので分かるんですが、写真はアートと見なしていなかったり、好みの範疇ではなかったりして、はっきりと区別があります。
あと、海外と価格の相場が違い過ぎて、アメリカの写真ギャラリーの商売スタイルを真似ても全然だめとのこと。へたすれば単価で10倍ぐらいの差がある。それでも庶民には厳しい出費ですが
費用の話でいうと、写真マーケットの本場・海外に売り込むのはどうか、となると、参加するだけで物凄く費用がかかって大変なので、守るも地獄、攻めるも地獄といった感がありました。『パリフォト』に参加して、スペースをもらうだけで、うん百万円。渡航・輸送費や、会場のしつらえなどを手掛けていたら、あっという間に桁が一つ増える話に…。中古で家が買えます。ああ、肝臓が痛い。
さらに、その非常に限られたスペースで費用をペイできるだけの売りを作るには、また単価の話があり、となると若手作家の育成・支援を中心事業としているギャラリーには、厳しい話になるという。ああ、肝臓が痛い。
「何百万かけて、その同額売っても、半分は作家に行きますからね」「その倍売って、ようやく、とんとんです」 とんとん。怖い言葉です。とんとん。ああ。肝臓が痛い。
「お金ないんですよ」「お金ないですよね」
(2)それぞれのビジネスモデル
だからそれぞれのギャラリーで販売戦略があり、平時の展示作品販売、以外の方法で収益を上げて、展示で身銭を切った分を補填しているという仕組みがあるそうです。
例えば柿島氏のビジネススタイルだと、額装。
作家の作品制作・展示において、顧客の作品購入時において、あるいはワークショップ等でのコンサルテーションにおいても、柿島氏は「額装のプロ」として関わることで売り上げを確保しておられる。
今回、柿島氏が大阪に来たのも、服部天神「gallery 176」で開催する森山大道写真展『Ango』(デザイナー・町口覚が小説家・坂口安吾の小説を取り上げ、その世界観に写真家を呼応させ、新たな書物を生み出すという企画)の額装、搬入・設営のためでした。額装だけで結構なお金に。また、他の作家さんの展示構成から額装まで一切を引き受けた仕事もあり、大阪での滞在となったわけです。
森山大道『Ango』DM。各分野のプロが力を出し合って作家の世界力をどんどん高めていく様子は、凄みがあります。DMも艶と闇が美しく、かっこいい。「いやあ旦那、華やかですなあ」と思っていましたが、しかしこの日はbarイベント直前までずっと設営の肉体労働をしていて、ろくに飯も食わずにBLOOMへ駆けつけたとのこと。たいへんや。
人のたいへんな話をききながら食い散らかす民。
ビジネスモデルの話では、窪山氏も「単価が10倍違うのにアメリカのやり方をしていてもだめだと気付いて、2年ぐらい前から地元密着を意識してやっている」とのこと。そのためBLOOM GALLERYの内装は、ブルックリンで見た花屋をかなり意識して、一見、写真を売っているとは分からないように、奥へお客さんを引き入れる工夫が講じられている。
キーワードは「地元」であるようだ。
写真の市場性、いや、写真界そのものを国内の地理で考えると、やはり中心は圧倒的に東京。だいぶ薄まったところに関西の大都市があり、そこから更にうんと離れたところ(=写真専門の学校やギャラリーなど皆無の状況)として、それ以外の地方都市がある。悲しいかなそのような状況です。他の写真関係者も大体同じようなことを言っているので、「なんだかんだで関西は恵まれている」「これで文句言うたらあかん」「むしろ頑張らないとだめ」という結論でした。自戒です。東京にへんな引け目があるなあ関西人。むしろ大阪は独自の写真文化がありますね。大事にしましょう。はい。しくしく。
しかし「新潟では写真の受け容れられ方が他とは違う(熱いものがある)」と、柿島氏から意外な話が語られました。新潟には写真文化――写真を買ったり展示を観に行くことが、自然になされる土壌があるらしいです。『Ango』の野村佐紀子写真展(H30.4~5月)を新潟の「砂丘館」(旧日本銀行新潟支店長役宅)で開催した時も、注目が集まり、盛況だったとか。
そして写真集中心の新刊・古本の店「BOOKS f3」が2015年12月にでき、写真関連のイベントを打っているなど、実は盛り上がりがあるのだという。この本屋はやばい。見るからに良い品を出している。うらやましい。
今は埋もれているが、実は写真文化の土壌がそれぞれの地域に潜んでいるかもしれない。そうした地域のポテンシャルを発掘して刺激していくことができれば、市場は育つのかもしれません。その牽引は行政の発想やセンスでは出来ませんが。
(3)写真界の閉鎖性とポテンシャル
こうした「市場」の観点で言うと、まず写真界はまだ他のジャンルに比べて後進的で、世界が狭いことに加え、競争の原理が働ききっていない面が大いにあるとのこと。
色々と実例もありつつ、
そのあたりはまたイベントの際に直接お聴きいただくとして、
写真界の閉鎖性――未成熟な面、ブラックボックス化しているがゆえに、色々な方がいますねという話題。
作家の側の意識にも、どうかなと思うところの旨の指摘がありました。普通の社会人が商談に行くなら、そんな態度で交渉しないよねということが、写真界ではなぜか当たり前になっている。「うちの製品買ってください、御社の事業が何やってるかは知りません、なんて、普通言わないでしょう?」そういうことらしいです。いたた。やってそうや。
柿島氏としては、「ギャラリーに敬意を持っていない人とは、やりたくない」という思いを持っておられました。ちゃんと、ギャラリーのことを見て知った上で、話があってほしいと。
一方で、作家から展示させてほしいと話を受けた時には、ちゃんと話を聴き、自ギャラリーでは作家に合わないと判断した際には、どのギャラリーなら合いそうかも含めて、採算度外視で具体的なアドバイスをしているとのことでした。
なので結局、作家の展示に関することについては、金銭面だけでなくシンプルに時間と労力の「持ち出し」が多いということが分かりました。「まあそれも含めて仕事ですから…」と語る柿島氏には、当初、写真専門ギャラリストとして独立の道を歩んだときからの思い:若手写真家、まだメジャーになっていない写真家を応援したい、という思いが伝わってきます。
「10年前の日本の写真界って、言わば、草野球とメジャーリーグの2つしかないんですよ」「プロ野球に当たる部分が抜け落ちてる。だから自分はそこを作りたいと思った」
柿島氏や窪山氏のように、若い世代の方々がギャラリーという業態を通じて、写真家、ひいては作家活動そのものを支援しているという構図が改めてよく分かった瞬間でした。作家活動のやりがいと困難さ。このことはinstagram等のWeb界隈で「作品」を評価し合っている層、ニッポンの風光明媚を追いかけるハイアマチュアの方々には恐らく無縁の話であり、同じ「写真」という地続きの世界なのに、通りをひとつまたげば国境を跨いでいるといった感があります。
つい2年前ぐらいから写真をやり始めた自分には、写真作家の界隈がこの10年でどう変わったかを相対視する術はありませんが、そのあたりの界隈の「うねり」もこうした生の話を聴いているうちに自然と見えてくるなあと面白がりつつ、どこか良い方向にむかうことを祈念しまして、酔い過ぎないうちに帰路につきました。めでたし。
次回のBLOOM GALLERYは藤岡亜弥「川はゆく」。名刺サイズのDMが超いい。財布に入るDM。これはいいすね。
次回の展示案内。会期はH30.9/15(土)~10/13(土)
gallery 176の森山大道「Ango」を設営後ろくに食べずに駆け付け、買ってきたやきそばを食いそびれたまま酒をつくり続けることになった柿島氏。菓子の袋に埋もれていたやきそばがその後どうなったかは不明。
終盤は大坪晶作品の鑑賞会になっていました。写真コラージュいいですよね。状況がカオスだ。
( ´ - ` ) 完。
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柿島貴志 氏 率いる「POETIC SCAPE」