nekoSLASH

ねこが超です。主に関西の写真・アート展示のレポート・私見を綴ります。

【ART】R5.10/6-12/31「Ambient Kyoto 2023」会場①京都中央信用金庫 旧厚生センター(Cornelius、Buffaro Daughter、山本精一)

「Ambient Kyoto 2024」2会場のうち「京都中央信用金庫 旧厚生センター」、Corneliusコーネリアス)、Buffalo Daughter山本精一の作品をレポ。

静かに広がる音楽に、独特な映像が広がりをもたらす。

 

アンビエントである。アンビエントってなんすか。

( ´ - ` ) 検索すると環境音楽がニアイコールとして、あるいは訳語としてしばしば出てくる。

 

私が体験したのは、環境音楽とも癒しとも似て非なるもの、テクノやハウスとも異なるものだった。

実際のところ、明快な区別はないだろう。だが照明と映像に満ちた部屋で流れてゆくそれらの「アンビエント」は捉えどころのない、空間と時間の混ざり合った、姿形なき「音」の連なり、流れとして体感された。

 

私のアンビエント体験は昨年の「Ambient Kyoto」、ブライアン・イーノから始まったばかりで、その間も特に聴いているわけではなく、かなりピュアな状態にある。

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京都新聞ビル会場:坂本龍一+高谷史郎「async ‒ immersion 2023」

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京都新聞ビル会場」のレポ冒頭に書いたとおり、今年の鑑賞はもう諦めていたところ、年末まで会期が延長されていたことを知って急遽朝いちで駆け付けたのだった。

 

なんかSMBCぽい色味ですね。

 

 

◆1F・受付、ギャラリーショップ

アンビエンッするぞ。

朝いち(9時)の開場で、客は少ないながら、さっそく来ている人たちもいる。昼からだと駆け込み客で混雑するのではという懸念があった。まったりゆらゆら座りながら聴くのが一番よいどす。まったり魔理沙。ちがう。

 

 

ショップにはCD、オリジナルシャツ、トートバック等。既に既定の会期中に相当数が売り切れたとか。

おしゃれグッズ、買っても勿体なくて箪笥にしまい込んで結局傷むので、見るだけにしますんや。物欲が乏しい(´・_・`) 脳下垂体に刺激を。

 

 

◆1F_Cornelius《QUANTUM GHOSTS》

青く明滅する無数の照明に囲まれた暗いフロア、真ん中にはでっかい金網のステージが。この上に乗ると全方向から青い光と音の明滅を浴びることができる。音と光は発生源が移り変わり、変容する空間として音が体感される。

そこは暗く、青く、また明るく光る。音と光はやってきてはまた何処かへ遠退き、またやって来る、ということを繰り返す。中央の金網のステージは底からも青く光を放つ。視覚が青く染まってゆき、無重力に目覚める。微睡むように覚醒する。寝ません。カッと目覚めるのではなく夢の側で意識が起きるような。アンビエントってそういうあれなんですかね。

 

演者もスターもおらず、観客でも踊り手でもない何かとても曖昧な存在として私達は立ったり下がったりする。電子音の厚いペーストを一塗り一塗りしてゆくようにあちこちで散発的に鳴っていく。キラキラしすぎない輝き。電気の階段をぽこぽこ上がったり下りたりするような音楽ですね。Perfume寄りの丸い電子音が続く。

 


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アーティストのCorneliusってあの小山田圭吾コーネリアス…?とはさすがに別物だろう、これ渋谷系じゃないしな、渋谷系って何なんや、まあ違うだろう、と思っていたがそれだった。ああっ。ここ10年間の音楽の動向がわからぬ。

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まあ音楽が良いので誰が誰かとかこだわらなくていいです(雑

 

 

◆2F_Cornelius《TOO PURE》

琳派の屏風絵のように真っ平らな植物の園、軽やかに弾むギターと共に次々に生えて、上へと伸びて、生い茂っていく。花は少なく、ほとんどは緑の草。そこには風があり、画面全体がゆさゆさとなびいている。鳥が飛んでゆく。千年前にも愛されたであろう「花鳥風月」の視界が体現されている。

凄いのは平面的な描写のままで視座のみが立体的に高度を上げていくところだ。画面は平面のまま、それを見る視点に高度と角度がついていく。それは登山の時に、頂上付近の平地で出会う背の低い植物の群落を高くから眺め渡す時の視界に似ている。

 


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◆3F_Cornelius《霧中夢-Dream in the Mist》

霧だ。

 

前が見えない。色の粒子で部屋は奥行きを埋め尽くされ、前後左右が分からない。始まりも終わりも掴めないアンビエントミュージックと似つかわしい。曲は抽象的ながらまだ曲としての形と流れを掴める。甘くどこかノスタルジックな… 夢の中を彷徨うように部屋を手探りで歩き、奥まで行って、霧の色が変わるのを見て、意識の焦点が曖昧なまま拡散する光を見ている。

 


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◆3F_ラウンジ

どの曲もチルだが更に落ち着いてチルしたい時のために、休憩室・ラウンジが設けられている。照明とロゴがおしゃれ過ぎて卒倒しそうになった。おしゃれなんやけども。なんすかアンビエントってそういう感じにしていくんすか。テクノやドラムンと違うな。あれは電子ドカタっていうか電子ガテンていうか。ドンツクしてるかどうかでおしゃれにいくかどうかが分かれる(※著者はうわごとをいっています

夢幻だよ。おしゃれだ。淡くて色がしっかりと乗っている。こういう洗練されたエモさって何食ったら出せるんだろうか。何食ったら(発想が貧困

ここでチルってなくてもメインの部屋で椅子があるのでそっちでまったりします。

 

 

◆3F_Buffalo Daughter《Everything Vallery》、《ET(Densha)》

3Fの大部屋では中央に椅子を並べ、両サイドの壁に大きく映像を流し、3作品がループで流れる。3つの作品はBuffalo Daughterが2曲、山本精一が1曲。

Buffalo Daughterアンビエントというよりハウスぽく曲のメロディー、リズムが明確で歌詞もある。《Everything Vallery》は浮遊感がありポニョポニョしつつも普通にダンサブルでステップが踏める。曲だけ聞いていると耳につくのはやわやわポニョポニョ電子音だが、映像が凄くて、宇宙空間に横スクロールで様々な図形の空間(図形の方が宇宙?複数の宇宙?)が流れていく様に目を奪われていると曲の電子音と電子音の間の闇に鳴っている、疼くような響きに映像の闇と光とつやつやした光沢とがシンクロする。

 

横スクロールと浮遊オブジェクトと電子音楽の組み合わせは言うまでもなくファミコン時代から人類が慣れ親しんできた世界観なので相性が良い。いつまでも見ていられる。加えてこの淡い紫や青、紺色の光沢と透明感は古き良きSF感に溢れ、いつまでも見ていられる。たゆたう。中毒性とまではいかないが一度入ると意識が弛緩して抜け出せなくなるのや。きもちよい。ああ。

 

対して《ET(Densha)》は音楽も映像もシリアス、ソリッド感が一気に増す。レトロエモーションから物理的リアルへ。暗闇に花が浮かぶが、無数の色の微粒子を立体上に組み上げた「霧」から出来ている。曲の展開に合わせて視座が切り替わり、回り込みと拡大が次々に起こり、視界は花の中へ、そして霧へと。それは暗い宇宙に漂う星雲の中へ突っ込んでゆき、全てが細かい星に還るようだ。

花から引き延ばされた細かな粒子が線を作り、粒子は空間となり、流れ去り、光り、花の形はデジタル線描に還り、流れの中で絵画のようなものに転じる。絵画? 最新の計算技術が古典的な世界へ結び付く。

 


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◆3F_山本精一《Silhouette》

旧厚生センターの作品では最もアブストラクトでマテリアルな音と映像だ。生まれてきたそのままの音というのか。映像にはピントが来ておらずこれも生まれたままの像という感触がある。次第に音と映像は明瞭になるがその形が固まることはなく、全体の一部であり、その一部、一端が全てである。

揺らぐ水、のようなもの、あるいは光そのもの、の波紋、波の揺れと光の蠢きは、電子音の甲高い軋みと低音のうねりでより細かい波紋を為し、それは細胞・組織の集まりのような黒い図形の集合を成す。まるで脳の中、神経細胞の中で起きている電気的な意識の反応を電子顕微鏡で拡大しているかのような光と黒の揺らめきに、美しさとともに不気味さも覚える。自分自身の意識が生成されている現場をリアルタイムで見ているような錯覚に陥ってふらっとする。

工事現場の足場メッシュシートに光を通して揺らし、マクロで録るとこのような光と黒の電子的な揺らめきが録れるかも知れない。脳ではないのだが、限界を超えて物質と情報量が過剰になった脳内の情報伝達が視界にリンクするとこのように大量のフジツボが群生しているような像に襲われるものだ。ないですか? 直視すると何とも言えないので、電気信号から水の国に帰りましょうね。

 


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結局3ループぐらいして満足して会場を後にした。おしつけやメッセージがないので何度も繰り返して聴いていられるのだ。映像もよい。没入できる。没ろう。推すより没るに限る。対象はいらない。コミュ(コミュニティ、コミュニケーション)を脱したところに電子音楽はある。ので良い。脳波も心拍も電気なのだ。ので良い。いいことづくめですね。(※個人差があります

 

 

というわけで2023年のAmbient Kyotoでした。

アンビエント度数でいうと次の京都新聞ビルの坂本龍一+高谷史郎が究極で最高度を誇ります。なので旧厚生センターでハウスよりに仕上げて体をならした後、京都新聞をやると完璧です。つぎのAmbient Kyotoまでの一年間はこれでもたせましょう。

 

完( ◜◡^)っ