「KYOTOGRAPHIE」本プログラムとは別枠、コラボ企画の位置付けで「アソシエイテッド・プログラム」 が3つ展開されている。
うち2ヵ所(立命館大学国際平和ミュージアム、妙満寺)は中心街からかなり遠いので、行けずに見送った人も多いのではないだろうか。
(【写真】瀧本幹也『LAND SPACE 2020』より / 会期は各展示で異なる)
- 【No.11】大垣書店京都本店イベントスペース ー催ー
- 【No.12】加賀谷雅道『放射線像/Autoradiographー放射能を可視化するー』@立命館大学国際平和ミュージアム・中野記念ホール
- 【13a】瀧本幹也『CHAOS 2020』@妙満寺 大書院
- 【13b】瀧本幹也『LAND SPACE 2020』@Sfera(京阪三条付近_スフェラビル2F)
No.⑪~⑬は表記がブルー。これが「アソシエイテッド・プログラム」という、KGとのコラボレーション企画という位置付けになっている。ごらんください、離れています。頑張りましょう。
【No.11】大垣書店京都本店イベントスペース ー催ー
【会期】2020.9/3~9/30
2019年3月にオープンした四条室町の商業施設「SUINA室町」、その1F「大垣書店」のど真ん中が会場だ。ただし写真展示ではなく、京町家について建築や文化、町の活性化の面から紹介するコーナーとなっている。
京都市景観・まちづくりセンター(KCCC)がKGとコラボし、京町家の未来についてビジョンを発信している。テキストと情報量が多く、他の展示とは完全に別の枠組みと考えた方がよい。ただ毎年KGのどこかの展示会場が京町家を利用しているので、ファンにとっては身近な話ではある。
今回で言えば、No.④福島あつし、No.⑤マリアン・ティーウェンは「伊藤佑町家」を舞台・作品として展開していた。その物件も取り壊しの予定であるからこそ、何もない真水の空間で展示ができ、マリアンは2棟分の空間をぶちぬいて暗黒空間を掘り込むことが可能となった。複雑な心境だ。
京町家の現状として、直近の推移でいうと「2008~09年調査:47735軒 ⇒2016年調査:40,146軒」と、年平均800軒・1日当たり約2軒の京町家が取り壊されている。そのため、京町家の魅力を訴求し、将来に向けてどのような活用方法が可能かを提案・検討していくことが必須であるという。ちなみに取り壊し後の多くはホテルやマンションが建つので、便利ではあるけれども味気の無い街になってしまいそうな・・・ 大阪ともども均質化してしまうのかどうか。
もっと学びたかったのだが、写真展を最優先で回っているので、テキストを咀嚼・腹落ちするところまで持っていけなかった。書いてることを誰か端的にガイドしてくれる方が展示ブースとしては良いのかもしれない。 いや、色々回って疲れただけです、すいません。。
【No.12】加賀谷雅道『放射線像/Autoradiographー放射能を可視化するー』@立命館大学国際平和ミュージアム・中野記念ホール
【会期】2020.9/28~11/7
この会場は他のKGから相当離れていて、洛北、金閣寺のあたりに位置する。大阪駅から1時間20分、京都駅からもバス1本で行けるが40分かかる。
これまでのKYOTOGRAPHIEでも、国際平和ミュージアムは展示会場となってきたが、本プログラムをこなすのに必死で来れたことがなかった。2017年には「DAYS JAPAN」ジャーナリストらの写真、2018年は林典子「ヤスディの祈り」が展示された。
今回の展示では、放射能汚染を可視化した「光」の写真が紹介されている。東日本大震災に関連して起きた福島の原発事故で汚染され、帰宅困難区域となった浪江町や飯館村などでサンプルを採取し、画像処理して作成されたものだ。
作品は撮影禁止だったので、KYOTOGRAPHIEのHPでアイキャッチ画像と、『放射線像』ホームページを確認いただきたい。言葉で百回書くより液晶画面で観てもらったほうが、その描画のイメージは理解してもらえるはず。
写真集だけでなく、3Dデジタル画像そのものを販売していて、撮影禁止だったことに納得。
映像作家・加賀谷雅道と、東京大学名誉教授(植物栄養学)・森敏とのタッグにより作成された。それは「見えない」物質であり、「見えない」汚染との科学的な戦いである。『放射能汚染は目に見えないという定説を覆すために、9年に渡ってその映像記録を残してきました』との言葉通り、私達の目には「普通」にしか見えない日用品や動植物が、夥しい放射能を秘めていることが露わになる。
真っ黒闇の中に、光の点で浮かび上がるヘルメットの造形。これは「オートラジオグラフィー」という技術で、放射性物質を含むサンプルを写真乳剤に一定時間密着させて観光させてから現像し、放射性物質の分布状態を示す像が得られるというものだ。
ちなみに、レントゲンが放射線をぶつけ、骨など放射線が遮られる個所が白く映るのとは逆の原理で、放射線があるところが反応して白い光となり、逆に放射線がないところは透過するため黒くなる。
本作では工程が電子化されていて、放射能汚染されたサンプルをイメージングプレートに乗せて静置、BAS(バイオイメージング解析機)で読み取り、その画像をコントラスト調整して放射能分布を浮かび上がらせている。
留意点として、写真ごとに個別の明暗コントラスト調整が加えられているため、写真の光の強さで放射能の強さを比較することはできない。各作品には放射線量(cpm/測定器で1分間に計測された放射線の数)が記載されていた。
当初は植物の葉など平面のサンプルを扱い、魚類や爬虫類などは乾燥させてできるだけ平らな資料にするなど工夫を行っていたが、2016年末には3D技術を開発し、立体物を読み取り、立体の像として提示することが出来るようになった。 そのため展示では平面の写真作品として提示されていたが、本領発揮するのはPCやタブレット端末内で、立体画像を指でぐるぐる回し、360度操作しながら像を確認できる。
展示は大きなフロア向かって左右の両壁面に、四切ほどの写真作品を展開(計20点)。フロア内には背丈以上あるタペストリーを立体で4基組み上げ、前後の面が写真となっている(計8点)。そして正面一番奥の壁にスクリーンを出し、前述のHPにあるような『放射線像』画像アーカイブを表示し、タブレットで操作を試せるようになっていた。
写真はどれも宇宙の闇の中に浮かぶ星々の像に似ていて、点々とした発光そのものが写し取られているため、銀河系のように発光の集合・密度が像そのものである。通常の写真のような色や形の集まった「線」や「面」の像ではない。
しかし神秘的な映像美とは裏腹に、実情はとてもリアルだ。キャプションの詳細な解説は、侵襲の恐怖を物語っていて、光の像=汚染には大きく3通りあることが分かった。
①土:軍手や上履き、箒の写真。土に積もった汚染物質に触れて付着し、接地回数の多いところが如実に明るい。また雨露などで流れ落ちて降下していることも推定される。
②空気:鳥の羽、洗濯バサミなどの写真。原発事故直後からフォールアウトした放射性物質が、飛ぶ鳥などに付着したと考えられる。また鳥の場合は飛翔中の遠心力により羽先に物質が集まっている。
③摂取・代謝:放射性物質の付着した餌を食べる、消化・排泄を行う際に、経路上で集合して濃度が高まっている。ツバメでは肛門が最も白く、ネズミは腎臓や胆嚢が白く光っていた。また、ヘビの全身は真っ白で、吸収されて体内に留まる様子もよく分かった。サルとイノシシの糞便は光り、ヒト(東京都)の糞便は透明である。
良い展示だった。
サンプル採取の様子の記録動画も展示されていて、作品との対比が凄まじい。見比べると本当に放射能は「目に見えない」。日常のあらゆる時間、シーン、物体が、放射性物質を蓄積し、いつまでもそれに付きまとわれる。不都合な、怖い現実だ。こんなものと一体どう向き合っていけばいいのか、私には答えがなかった。
【13a】瀧本幹也『CHAOS 2020』@妙満寺 大書院
【会期】2020.9/19~10/18(※1週間延長)
顕本法華宗の総本山・妙満寺は、京都の洛北・岩倉のあたりに位置し、国立国際京都会館から徒歩15分である。こちらも他会場からとても離れているが、展示鑑賞により本堂に入れるため、京都観光の一部として価値がある。おこしやす京都。
「大書院」入ってすぐ、脇で入場の受付をしている間も、正面の「中の間」の床と襖の作品が見える。白い雪に包まれた山岳の表情は、白地に黒の広がりと飛散がそのまま水墨画を思わせる。
「山」としての立体感=山という存在物・空間、ではなく、自然の織り成す不規則な「デザイン」性の美に着目していることが、主張なき平面性の心地よさに繋がっている。おそらくドローン空撮だと思われるが、撮影者の視線を無化し、誰がどう「見て」いるかの主体性が消えた俯瞰の図となっていることが、日本の伝統的な風景画に通じるのだろう。
それは広大な山岳を真横から捉えた作品でも、海の波が表情を大きく変えてゆくのを捉えた作品でも共通している。山も波も、表情はフラットに扱われる。たとえ強い明暗を付けてドラマティックに演出しても、作者の主観が増幅しているわけではなく、相手(被写体)の主観も増幅させない。透明感を与えるレイヤーを挟み込み、現実から一旦遊離したような、重力を手放させる文体を以て、全てを軽くする。一般的な風景写真や絵画とそこが大きく異なり、鑑賞者にほぼズレのない均質な印象をもたらす。
それは静かな爽快感と言ってもよい。透明とはいえ、それを構成する造形と色と配置など諸成分の配合は厳密であり、視覚のポカリスエットのように鑑賞者の内面に、急速に染み込む。広告や映画など多方面で活躍する作者ならではの、マスに対して広く受け容れられるための、非常に高い表現技法が秘められている。
【13b】瀧本幹也『LAND SPACE 2020』@Sfera(京阪三条付近_スフェラビル2F)
【会期】2020.9/19~10/18(※1週間延長)
宇宙と地球を見渡す展示会場。スケールがでかい。
タイトルが簡単なようで謎だった。「Landscape」など一つの単語ではなく「Land」と「Space」という二語をスペースで並置しているのはどういうことか? 調べてみるとそのままで、ライフワークとして撮ってきた二つのテーマ:「Land」=原初から続いてきた地球の地形・自然と、「Space」=ケネディ宇宙センターとを並置している。それは自然と人為の最たる対比であるとともに、その先には対立ではなく和合するものであるかもしれない。
妙満寺でも実感したが、瀧本作品はブルーの清涼感が脳に直接、染み込む。タキモトブルー。これはやはり独特の配合というか、世相や不景気やTwitter疲れTV疲れなどで乾ききった私達の心のヒビにしみこむ、眼で飲む清涼飲料水なのだろうか。
広い世界を、個人の癒しに還元などしたくはないが、宇宙センターの巨大、複雑、メタリックな装置、機器の群れを撮りながら、それらの光沢や陰影を誇張せず、逆に透明感によって潤いをもたせ、鑑賞者の内へと吸わせる技は、やはりポカリスエットの配合のごとき、厳密に考え抜かれたデザインの力を感じざるを得ない。
機械のみっしりと詰まった宇宙センターも、SF的ではあるが、空想を掻き立てたり物語や妄想を想起させるものではなく、一枚ずつの画で完結されている。優れたCMや広告のように、一切不快な引っ掛かりを与えず、一定の「心地良さ」、清涼感を的確に与える。マシンを相手にしても、被写体の世界観の壮大さに呑まれず、ピタッと制動を効かせたビジュアルに仕上げる――それでいて魅力は伝える、という技術と姿勢は、不思議な印象をもたらした。
というわけで宇宙と地球なのであった。
Sferaは外観もかっこいい。この展示にとても合っていたと思います。空間の透明感も合ってますよね。広いですし。
これで「KYOTOGRAPHIE 2020」、メインプログラムとアソシエイテッド・プログラムの全てをレポートし終えた。新型コロナの影響による会期延期、再調整からの展示ということもあってか、例年より空間・会場のしつらえなどが簡素な印象だったが、それはそれで不自由なく、落ち着いて鑑賞できた。写真仲間も同じようなことを言うてはりました。
なのでけっこう今回はKG本体がおとなしかった分、「アソシエイテッド・プログラム」が相対的にてんこもりで、豪華に感じました。いやあこれは贅沢な展示です。いいですよ。
( ´ - ` ) 完。