nekoSLASH

ねこが超です。主に関西の写真・アート展示のレポート・私見を綴ります。

【ART】R5.7/10-9/16_「新宮晋の頭の中」@山木美術

芸術家/風の彫刻家・新宮晋の展示が大阪・西天満で催されている。新宮晋スケッチブック『ぼくの頭の中』シリーズ続編(2巻・3巻)刊行に合わせた企画だが、ちょうど大阪中之島美術館で企画展『Parallel Lives 平行人生 — 新宮 晋+レンゾ・ピアノ展』とも同期している。

【会期】R5.7/10~9/16

 

「山木美術」は西天満のギャラリー街から太い道路を一本挟んだ先にあり、普段行かない立地である。特に写真系ギャラリーでもないので普段ノーチェックである。

なぜ新宮晋の企画がここであることを知ったかというと、大阪中之島美術館の展示について検索してたらちょいちょい掛かったのと、「ブレーンセンター」社のTwitter『ぼくの頭の中』シリーズ続編(2巻・3巻)刊行に際して、3巻入り限定ボックスの販売が告知されていたためだ。あかん。「限定」「限定ボックス」と言われるとくるおしく気になるのが、本買いのサガである。

うぐぐ。気になる。

 

・ブレーンセンター社『ぼくの頭の中』解説

www.wantedly.com

限定ボックスが大阪中之島美術館だけでなく、この山木美術の展示でも売られていると知り、一体どういう内容なのか、ボックス買うべきかどうかの確認も含めてやっておこうという目論見で訪れたのであった。

 

ショーウィンドウ式のギャラリーである。あるようでわりと珍しい気がする。銀座はこういう感じの画廊が多かったな。

デッサンとオブジェの2作品が見える。道路や広場で風を受けてぐるぐるしているパブリックアートしか知らないので、前情報がなかったら歩いていて新宮晋とは気付かなかっただろう。

 

<小さな星座>、小さいがメタリックで激しくかっこいい。惚れますが。

公共空間の彫刻として、支柱で支えられたり天井から吊り下がっている代表作品とはまた違った緊張感がある。金属面の存在感が大きいが、反射光を湛えているところに金属という言葉では収まらない原初の存在感―光や空気といったエレメントを象徴している。小さい円形の組み合わせに無限を内包している。

 

無限いいなあ。

無限は欲しい。しかし495万円。うそやろ。いや値札にそう書いたる。49.5万円でも買えないのにゼロの桁が更に一つ違う。あかん。みんなカツ丼食えるぐらいにとか言わず、高名な美術家の作品をフラッと買えるぐらい成功者になろうな。

 

1Fギャラリー内は今回の『ぼくの頭の中』シリーズも含めて、新宮晋の作品や絵本など関連書籍の展示・販売が主で、資料的に映像が流れている。

「ギャラリー」によくある四角くミニマルなホワイトキューブ、ではなく、打合せの応接間のような部屋で、中央には椅子とテーブルがあり、入口ドアから正面の部屋の奥に受付カウンター、部屋の壁に沿って陳列ケースやキャビネットを配し、作品や関連書籍を展開してある。

 

あっ。これです。新宮晋『ぼくの頭の中』1・2・3巻(税込3,300円、4,400円、4,400円)。

左端の白いのが3巻まとめBOX(税込13,200円)。

3冊バラで買うと12,100円なのでボックスは1,100円高いが、限定品ですからね、あまり問題ではない。

 

まず2013年9月末に第1巻(イエロー)が刊行された。国内外の代表的なプロジェクトを計15作品紹介していて、1970年大阪万博関西国際空港、ブレーンセンター社屋の「風の万華鏡」などが紹介されている。これがあればまず新宮晋の活動、作品の傾向は押さえられる。

このたび出た2冊は作者の過去・内面を掘り下げたもので、第2巻(オレンジ色)では学生時代から「ブリージング・アース」までの様々な作家との出会いなどが、第3巻(緑色)では幼少期からの体験などを通じて「地球の素晴らしさを子供たちに伝える」メッセージがまとめられている。

 

中身が確認できたのはよかった。つまり1巻から順に作家の精神面へ入り込んでいく形になっている。建築的なパブリックアートの記録から絵本のサンダリーノへ向かっていくと言えばわかりやすい。

 

だが私のような、新宮晋の作品を「駅前とか道沿いとか関空の天井とかでぐるぐる回ってるアレ」ぐらいにしか思ってない人間は、『ぼくの頭の中』第1巻と、大阪中之島美術館の「平行人生」展示図録を読んで基礎のキからやった方がよいと判断。そのようにいたしました。はい。(注:半月が経ちますがまだ2冊とも全然読んでゐません。鋭意努力します)

 

ちなみに「駅前でぐるぐるしてる」記憶というのは辿ってみたらばJR神戸駅の駅前広場に設置された<海からの便り>でした。

public-art.jp

 

更に「道沿いでぐるぐるしてる」というのは、三宮駅から海へ向かって南下するフラワーロードに設置されている作品<星の肖像>のことでした。

public-art.jp

 

関西は意外と街の中、ビルの敷地内やエントランスに昭和を代表する美術家の作品が設置されていたりするので、「何となく覚えのあるアレ」が著名な作品だったりします。なんせ地元民としての潜在意識に「太陽の塔」が刷り込まれているトライブですからね。幼少期に遠足とかであの威容を深層意識に刻印されておるのが京阪神部族なのです。なにげにやばいからな。なめたらあかんど。京都駅ビルとか清水九兵衞が近未来に擬態してるから恐ろしいですよ。京都こわいど。

その一つとして新宮晋も知らない間に刷り込まれていると思われます。みなさんも奇妙なぐるぐるを見たら新宮晋を疑うように。かしこ。

 

 

なんかビル3階のオフィスにもギャラリーがあり、そこでも作品が観られますよと案内され、行かせてもらうことに。ビル内は施錠されているので勝手には行けない仕様。電話連絡がとられます。どきどき。

 

んちは。

 

あっモビール的なのがある。

 

これぞ新宮晋。多段階で回っている。

A・カルダーのモビールは絵画的なのだが、新宮晋のは物理の力の存在感そのものなんですね。

 

多段階と言うのは、オブジェ全体が回る、枝分かれした先がまた別方向に回る、更にそれらの先端にある羽や図形のパーツが個別に回る、といったふうに複雑な作りをしていて、単なる風車やモビールとは一線を画している。だがテオ・ヤンセンのように生物めいた有機的に組み合わさった動きとも異なり、可動域がそれぞれ不作為の動きをする。されどバラバラに散らばるのではなく、空気の流れや重力に沿ってそれらは大きな/ささやかな律を持って動いている。

 

壁に掛けられたのは作品アイデアのスケッチで、5~6点で1シリーズとして販売されていた。作家の世界観を象徴するスケッチを実作品の象徴物として売る・買うのはクリストでお馴染みですね。ただ新宮晋ぐらいの作品サイズだと、企業やそのオーナーが買って敷地にドンと置くことが出来るので(価格は知りません)、なんていうか皆さん頑張って稼いで現代美術を買えるようになりましょう。月に旅行するより現代美術を身近に置くほうが脳が宇宙的に冴えると思うんですよね。人間には想像力と知覚力があります。はい。

 

 

( ´ - ` ) 大阪中之島美術館の展示に先駆けて、いい予習になりました。

 

完。