最も海に近付ける「荻浜エリア」では、名和晃平がエリアキュレーターを務める。カキ養殖を行う海の現場は森とも近接しており、砂浜ではなく荒々しい岩石が波打ち際に続く。さわやかな潮風とともに、大地の力も感じるエリアだ。
- ◆WOW《Emerge》_ひとつめの洞窟
- ◆名和晃平《Flame》_ふたつめの洞窟
- ◆村瀬恭子《かなたのうみ》_みっつめの洞窟
- ◆野村仁《Analemma-Slit:The Sun, Ishinomaki》
- ◆名和晃平《White Dear(Oshika)》
- ◆今村源《きせい・キノコ ‐ 2019》
さきの【C】「桃浦エリア」からは、車で10~15分走ったらもう【D】「荻浜エリア」です。これ意外とどのエリアも近接してるのでは。回りやすい。
エリアマップはこうだ。
駐車場がもう少し右(東)にあり、インフォメーションでチケット確認される。漁港の一部をずんずん歩いていって、途中から少し山道になる。木々の合間から白い巨大な鹿を見やりながら、作品群のあたりに降りてくる。無機質なコンクリ岸からいきなり自然の豊富なところへ放り込まれる感じ。15~20分ほど歩いた計算になり、体に良かったです。おつうじがよくなるね。なろうよ。
駐車場には控えめな防潮の壁が。控えめですなあ。桃浦とえらい違いです。周辺は道路と平べったい敷地ばかりで民家がないからかな。桃浦もなかったけどな。差がわからん。
歩きます。港からいきなり山道みたいなところになる。14時半を過ぎているがまだ何も食べていない私達だが、脳内麻薬が効いているので文句も言わず歩くことが出来るのであった。
山のあちこちの地面がめくれ、震災の時の痕かなと思ったりしつつ。海ではカキの養殖をしています。そして作品と建物が見えます。建物は「Reborn-Art DINING」、リボーンアート開催に合わせて営業するレストランで、昼飯が食えたりします。しかし列ができていて食えそうにありません。諦めました。しかし鹿が巨大ですね。思っていたより数倍はでかい。パワータイプの神獣でしたか…。
山道は段々と下り、森と海が隣接したところに出ます。鹿はおあずけにして、森側の方へ行きます。貸出用ヘルメットが並んでいます。作品は洞窟の中です。
◆WOW《Emerge》_ひとつめの洞窟
洞窟が3つあり、順々に巡っていきます。地球の中へ入ろう。
洞窟内にジャーッと音が響き、高速でぐるぐる動く光の群れ。音を立てて、回るように動いています。虫というより、定まった形のない地霊です。大地の奥には何かが棲んでいることを強く印象付けられます。命。
洞窟と言ってもそんなに奥が深いわけではない。暗くなったと思ったらすぐ作品があり、それより奥には入れない。頭上は木枠が組まれ、天井から岩が落ちてこないよう対策されている。手前も手前。だからこそ、もしかしたらこの奥にはもっと深く洞窟が続いているかもしれない、そうしたらもっと巨大な地霊の本体とか群れがいるのでは・・・などと空想が走ります。
解説によると戦時中に旧日本海軍が魚雷を隠すために作られたものらしい。震える光はそんな過去に囚われず、大変に活発に動き回り、…なんか動画で見るとヤバい虻とか発光性のハエが大量発生しているようにしか見えないが、実際はもっと神秘的でした。体験と動画は全然違いますね。こんなんとちゃうんや。
「ヘルメットが無かったら死んでましたね」と謎のデマを振り撒きながら帰還。洞窟といっても手前だけなので危ないことは特にない。普段から廃墟などに慣れ親しみすぎていて、客としてはこじらせの部類に入ります(自覚。
◆名和晃平《Flame》_ふたつめの洞窟
これはいいぞ。脳内麻薬が出る。大地の内側、本当の地球の姿を見た気がする。熱くはないが吹き上がり揺らめく炎の色と煙は本能に訴えてくる力強さがある。抗うことのできない力。見とれてしまった。私はまだ生きた火口や溶岩を見たことがないが、見とれてしまった。安全で快適なところから、地球の牙を見る。この、星の内側の脈動があの時の地震に繋がっていることは言うまでもない。だが(だからこそ)、脈動で引き起こされたあの日のことは、星の原理で言えば、何ら特別なことでも、何でもないのかも知れない。
いやあ岩石岩石。
ヘルメットが無かったらしんでましたね。(←お約束)
そして3番目の洞窟へ。
ちょっとだけ長く歩きます。リボーンやってなかったらこれらの戦時人工洞窟は埋もれていたのだろう。出会えてよかった。あんたらは良い洞窟だよ。鋭い岩をしている。人間が苦手すぎて洞窟にシンパシーを感じるという末期症状ですが、いいものはいい。
◆村瀬恭子《かなたのうみ》_みっつめの洞窟
洞窟内の天井の岩などに、太古の壁画のように色と模様が浮かび上がる。これも写真や動画では全く捉えられず、体験とは異なるものしか残せない。もっと長く居たかった。数十分ぐらい、コーヒーでも飲みながら、オーロラを眺める旅人の心境で、想いを馳せるとか何とか人為的なことを捨ててしまって、ただアホのように眺めていたかった。まあ普段からアホですけれども、いいものはいい。
海の輝き、波間の揺らめきと、地球の内部が和合する場所。好きだなあ。アルタミラとかラスコーがずっと遺されてきたのはいつの時代も「これすごいし、ずっと見てたいから壊さないでおこう」と皆が示し合わせてきたからに違いない。岩石の表情もいい。
ヘルメットなかったら死んでましたね(おやくそく
一転して空の開けた海側へ出ます。ほんとに森と海がきんきんに近い。森の栄養素が海に流れ込んで良いものが育つのではないか。すごく便所からいい匂いがするのでおかしいなと思いましたが、レストランがいい匂いをしているだけでした。そらそうや。
◆野村仁《Analemma-Slit:The Sun, Ishinomaki》
時の流れ、時空を星の運行のレベルで捉え、表現する作家。NMAOでは高頻度で作品に出会えるのでお馴染みです。無限大模様の光は、オブジェの向こうの空から差し込む光。 このオブジェ内には入ることが出来る。オブジェというより【建築】に近い。
なぜかこの形状と陰影の空間が、私には先鋭的な教会のチャペルに見え、つまり挙式の場に見え、すると無限大の光は首吊りの象徴に見え、「結婚したら死ぬ」という世知辛い現実を突きつけられたような気がし、嗚咽し、何ものかに許しを乞うた。ああ私はどうすればよいのですか。ああ。マッチングアプリでもしたらよいか(違う
◆名和晃平《White Dear(Oshika)》
野村仁のすぐ傍に立つのが白い鹿。今回のリボーンアートのメインイメージに使われている、東北を、牡鹿半島を象徴する神秘的な存在です。
写真では陰の深い森をバックに、海の水面に体を反射させ、水と緑の守護神のような威厳と不思議さを湛えていました。でも直に浜辺で見るとかなりフラットな鹿さん。この写真では全く伝わりませんが、高さが6mぐらいあり、人間が近づくと足元に寄り掛かる感じになります。でかい。
あまりに完成度が高いというか、もしもこの鹿を取り除いたら「リボーンアート」の芯が無くなるのでは、と思うぐらい象徴的な存在感がある。調べてみると2017年、リボーンアート立ち上げ当初から立っているオブジェで、最古参であった。理解を超えた説得力があり、この鹿はこのまま佇み続けていただかないといけない、という謎の想いとともに浜辺をうろうろした。
なぜか写真がほとんどなかった。崇高さに打たれたのか、記念写真を撮りたがる観客の合間を縫うのに疲れたのか。しおかぜに吹かれていたかったのか。
◆今村源《きせい・キノコ ‐ 2019》
鹿さんのあたりから遠目に何かが立っているのが見える。黄色の作品看板もあるし、何かがあるに違いない。と、民は浜沿いに歩いていくことになります。途中から「なんかキノコのようなものが立っているなあ」と気付きます。そして、キノコがありました。
きのこですね。それだけなんですけどね。でも近づいて見た時より、遠方から見た時の方がスケール感は何故か大きかった。不思議な存在。今村源の作品は昨年に各所の80年代美術の特集展でよく見かけたので馴染みがございます。
作品はこれで全部なので戻ります。15時半、ちょうど鑑賞に1時間費やしたことになります。レストランはまだやってましたが、悠長に時間を確保してたら次のエリアが観られないので飛ばします。リボーンは16時で終了、土日祝日は17時までと、なかなか厳しい。
道中には貝殻の堆積というか渦というか。漁がお盛んですね。
養殖と浜辺。
山道を終えて、港から駐車場へ向かう道には漁業関連の機材、物資が転がっています。どれも放置のように見えて持ち主がしっかり判別されてそうな気がする。
あかんお腹すいた。これは何か食べないとだめ。
駐車場から道路を挟んで向かいに、「はまさいさい」という新しい飲食施設があります。2017年のリボーン時に生まれたものです。行ってみると飯はもう無くて、ドリンクのみ。
手前で「たこめし」を出す漁師の露店があり、それを頼みにします。「利豊丸やまぶん水産」です。まだやってました。わあい。助かった。泣きます。
レジにタコが干してある。わあい。
タコ肉はほとんど入ってなかったけど、めしにタコの味がしっかりしみていて、噛み締めると滋養でした。これはしあわせになる。なるぞ。あと写真が悪いですが、こんなに茶色ではなくもう少し赤みがあります。写真作家目指してたはずなんだけども。露出とかが厳密を欠くので、なげやりな気持ちになり、咀嚼回数を増すなどしてうやむやにしました。
自然の豊かな土地、のように紹介してきましたが、現実に戻ると、車道とその周りは長い長い復旧作業が続いていて、土木の世界が広がっています。ドボク系です。道路を確保し、ガレキを除去し、その次の段階に向かおうとしているところです。生まれ直した都市。
( ´ - ` ) この日のラスト、「小積エリア」に向かいます。