nekoSLASH

ねこが超です。主に関西の写真・アート展示のレポート・私見を綴ります。

【ART】あいちトリエンナーレ「表現の不自由展」閉鎖後の展示変更(1)@愛知芸術文化センター8F

「あいちトリエンナーレ2019」は8/1に開幕するも、「表現の不自由展・その後」を巡る状況の危険度から8/3の記者会見を経て、8/4以降は閉鎖となった。その運営側の決定に疑問を抱いた作家らが抗議の意から、次々に出展事態や展示内容の変更の申し出を行い、開幕当初の状況から様々な点で展示が変更されている。

ここでは、私が再訪問した8/29~31における状況を8/3と比較する。

 長くなりそうなので、今回は愛知芸術文化センター8F、次回に10Fとそれ以外の会場で分割します。

 

 

 

<参考>8/3(土)「表現の不自由展」の状況

www.hyperneko.com

 

8/3の時点では、「表現の不自由展」は恐らくもたないだろうと予想できたが、まさか他の作家らが次々に辞退を申し入れるとは思いもよらなかった。8/3訪問時には愛知芸術文化センターにしか行けなかったのだが、その時点で撮影した写真があるものについては現状と比較し、ないものは現在の状況のみ提示したい。

 

現在、上記パネルのように12組の作家が、あいトリ運営側による不自由展の閉鎖=検閲として抗議の意から<展示の一時中止>もしくは<展示の辞退>を申し出ている。中には中止を表明したものの継続の意思が確認された作家もいる。

なお、このパネル掲示後、9/3以降には田中功起が展示の「再設定」を行い、展示室内への入場ができなくなった。事実上の閉鎖に近い。

 

そもそもの「表現の不自由展」の閉鎖はあくまで「一時中止」であること、「不自由展」の実行委員会とあいトリ事務局との間では「今後も協議していく方針が確認されている」とのことで、協議によっては再開もありうるという状態だ。そのため、動向によってはこれらの作家らも展示を再開するということになろう。望みは薄そうだが・・・。

  

<★link>公式サイト・ニュース「本来の状態で見られなくなった作品について」(8/20時点)

https://aichitriennale.jp/news/2019/004061.html

<★link>ニュース「 田中功起の展示の「再設定」について」(8/25時点)

 https://aichitriennale.jp/news/2019/004079.html

 

1.愛知芸術文化センター

最も展示の変更・中止が多く、ややこしいので地図に直接書き込みました。

 

①A23_表現の不自由展:展示中止(協議中)

◆8/3時点

今となっては懐かしい。この行列の先には件の、様々な作品があった。撮影可だったものの、写真のSNS等へのアップは禁止だった。もう閉鎖したんだから写真の扱いは自己責任で解禁させてほしいものだ。

 

◆8/29~現在

開かずの宮殿になってしまった。

あれだけの騒ぎになったので、これが10/14の会期終了時までに再開されることは事実上、ないのではと思う。なにせ、自治体の首長らがあの調子なので、誰も守ってくれないだろうし、「叩きやすいものを叩けば民は喜ぶ」という原則でもあるのか、そういうことをするので、油断なりません。展示の粉砕が目的化された荒ぶり層の情熱が再燃するとなると、現場に及ぶ負担と危険は更に想像がつかない。ヘイトやアンガーに対してリフレクを張って返す術はないものか。

 

《重重―中国に残された朝鮮人日本軍「慰安婦」の女性たち》作家・安世鴻からの、展示の中止撤回と再開を強く求める抗議文。

『「表現の不自由展・その後」の中止は政治の検閲による表現の不自由の存在を世間へ見せつけるパフォーマンスになってしまいました。日本社会が抱える恥部を隠そうとして、むしろ日本の歴史にもう一つの恥部を作ったのです。』

 

《平和の少女像》作家、キム・ソギョンとキム・ウンソンの抗議文。

河村たかし名古屋市長と菅義偉官房長官の発言は、日本の憲法にも厳然と存在している、表現の自由を侵害する反憲法的詭弁です。

また、彼らは展示に責任を持つ関係者でもありません。自分が気に入らないからと展示に対して圧力を行使するのは、日本のすべての文化芸術を見下す不道徳な行為です。』

 

 

②A21_CIR(調査報道センター):展示辞退

◆8/3時点

「表現の不自由展」の手前のフロアで、6点のアニメーション映像作品を壁掛けモニターにて上映していた。CIRは1977年に設立された米国の非営利報道機関で、映像は米国のシリアスな現状について実に多くのことを語っていた。ディスカバリーチャンネルをもっと社会の救いのなさへ寄せて濃縮させ、アニメーションでまろやかにした感じ。

内容は「アート」と言うよりジャーナリズムの範疇だが、「やっぱりね米国」と「聞いてないよこんな米国」があり、この展示が抜けたのは大きな損失だったと思う。もっと観たい。

「BOX-独房の少年たち」(2016)は、犯罪で捕まった少年らが送り込まれるニューヨーク州のライカーズ島刑務所での扱いのひどさを振り返り、独白する。12,000人の成人と数百人の青少年が収容され、かなり雑な扱いをされる(1.8m×2.4mの部屋に1日23時間)ので、発狂寸前となり、人格更生など望めないという告発だ。黒い斑点の幻覚を見るという話がおぞましい。

 

「あなたを追跡中:プライヴァシー、個人情報、アクセスできるのは誰?」(2013)は、自分しか知らないはずのプライベートな通話・メール、いつどこにいるか、何を好むかといったコアな個人情報が、それらの通信サービスを提供しているグローバル企業によって全ての情報は把握され、それを国が活用してテロリストか否か確認していることを描く。

2019年現在、このような実態はもはや当たり前すぎて多くの人が諦めており、分かりつつも便利なサービスを使うために目をつぶっているというのが実態ではないだろうか。

 

アメリカの監視―その知られざる歴史」(2015)も、グローバルなWebサービス企業が個人情報を糧に利益を上げ、それが国家の監視と安全保障のために使われていることを指摘する。公民権運動の頃からも電話の盗聴が行われ、911以降のテロ対策などを経て、Webの検索機能など、国家が個人の監視に血道を上げている。それを聞いてもなお、特にスマホの利用を自粛しようなどとは思わないのが、我ながら不思議なところだ。慣れというやつか。 

 

 ・エホバの証人:この世界の一部ではない人たち」(2015)は少し毛色が違い、宗教団体「エホバの証人」の特異性に着目している。彼らは終末思想を持ち、大戦争で地球が滅びたのちに、14万4000人という選ばれた信徒だけが天国へゆき、それ以外は惨死するとしている。なかなかハードコアな教義だ。救済される人数が妙に具体的なのは、ヨハネの黙示録に出てくるイスラエルの子孫・12部族から12,000人ずつ救済されるとしているためだ。じゃあ日本支部とかあるけど私たちムリなんじゃ…

 

「連れ去られた子どもたちのいるオフィス」(2018)は後味が悪いドキュメンタリー。2018年夏、アリゾナ州フェニックスのオフィスビルに子供たちが大勢いるという情報が寄せられる。不気味なオフィスの正体はMVMという警備会社で、メキシコからの移民の子供らを収容していた。

MVMはwikiの記載では「民間軍事会社」に分類され、概要には「トランプ政権の家族分離政策を管理する請負業者である」とされている。移民の流入を防ぐための重要な施策ということだ。なぜ権力者は弱者の最も辛いことを熟知しているのか、支配とはすさまじい。 

 

◆8/29~現在

辞退ということで、閉鎖です。「不自由展」が再開したとしても復活しないだろう。いいコンテンツだったのに実に残念。Webで日本語字幕版を流してほしいですなあ。

  

③A27_ハビエル・テジェス《歩行者》:展示中止

映像作品だったが元々撮影禁止だったため、閉鎖後の扉のみ。作品の解説では「移民や精神疾患をもつ人々など、社会の中で隅においやられているコミュニティに目を向け、それぞれの土地や場所の持つ社会・政治的状況を反映した映像作品を制作する」「ロンドン、リマ、東京、ベルリン、シドニーリスボンメキシコシティ、ニューヨークなど、世界各地の都市でインスタレーションや映像作品を制作」とあるが、全く思い出せない。よよよ。この概要からすると、大好物のはずだが、、、どうやら印象には残らなかったようだ。やはり写真で残せないと記憶には・・・。

 

④A28_イム・ミヌク《ニュースの終焉》展示中止

( ゚q ゚ ) 記録写真が残ってない

 

( ゚q ゚ ) 観た記憶すらない

 

あかん。

完全に見落としていたと思われる。そんな馬鹿な。全フロア観て回ったはずだったのに…。。すぐ近くの通路で展開していた澤田華に夢中になりすぎたのか、、 不可解なのは、2回行って2回とも見落としている点だ。私にはものすごい死角があるというのか・・・。

解説では「国家の枠組みを超えた共同体や、個人による連帯の可能性をテーマにする作家」「北朝鮮金正日総書記と韓国の朴正煕元大統領の葬儀が並んで行われたことから、2つのコミュニティにおいて説明しがたい悲しみと、その背景にある一見正しく見えるようで矛盾している事柄に対し、疑問を投げかけて」いたとのこと。観たかった。

 

 

⑤A30_タニア・ブルゲラ《10150077》:展示中止

◆8/3時点

 

あいトリ公式サイトでのタイトルは《43126》だが、展示会場ではタイトル《10150053》、その上から上書きで《10150077》と、何がどうなっているのか分からない。数値の意味は、今年2019年に国外(作家の出身地であるキューバが基準?)へ無事に脱出した難民と脱出できずに亡くなった難民の和ということだ。が、公式サイト上の解説は《43126》が上記の文面で、2018年テートモダン出展作品《10,148,451》の解説として「世界にいる移民の数」となっており、何らかの形でてれこになっている模様。

タイトルが手書きで書き換えられ、なおかつ展示室内の数値も複数並んでいるのは、世界の移民なり難民の人数が増加し続けていることを意味するのだろう。地球規模のインスタレーションというわけだ。

展示作品は、何もない。あったのは、入室の際に手に押された数値のスタンプ、そして室内に満たされたメンソールの香りだ。このメンソールは、部屋の奥へ進むにつれて濃度が高まり、最後は強烈で、半ば強制的に泣かされる。ゲホッゲホッ。うばっ。『この室内は、地球規模の問題に関する数字を見せられても感情を揺さぶられない人々を、無理やり泣かせるために設計されました。』最高すぎる。危険なぐらいクレバーな作家だ。

数字で共感して泣ける人間どころか、難民問題のニュースで親身になれる人間も実際は稀少だ。少なくとも私は他人事になっている。感覚を物理で揺さぶるというのは知的なテロで、大変良かった。ゲホッゲホッ。うばッ。

 

◆8/29~現在

写真は撮ってないですが、扉が閉ざされて貼り紙されています。メンソールの絶えた白い部屋は、難民・移民をカウントすることを放棄してしまった。私たちはまた一つ、泣く機会を失ったのだ。

 

 

⑥A21_パク・チャンキョン《チャイルド・ソルジャー》:展示中止

 ◆8/3時点

手前の部屋にライトボックスに入った写真が並び、奥の部屋で音声と共にスライドショーが展開。被写体は森の中を歩き、休み、ハーモニカを吹き、銃を構える少年兵だ。作家が韓国人であること、兵士が私たちと似たような面立ちであること、何よりも彼があまりに若く、幼いことから、前線に立たされている北朝鮮の兵士がモチーフであることが察せられる。

解説では『作家の母がかつて北朝鮮の少年兵を目撃したエピソードの中の「政府からの伝達やニュースで見聞きしていた怖い兵士像とは異なり、山の中で遊ぶ銃を持ったただの子供だった」という言葉から着想を得てい』るという。

その言葉通り、兵士と呼ぶにはあまりにも幼い顔が印象的だ。慢性的に人材不足なのか、北朝鮮の実情がしのばれると共に、国境で必ずしも守られているわけではなく、常に緊張状態にある韓国の実情もまた、生々しく思い起こされる写真だ。

 

◆8/29~現在

閉鎖されている。

本作が観られなくなったのは残念だ。現在、韓国(文在寅政権)は常に対日関係における不義理、反故、問題児としての観点からしか語られていないし、その向こうの北の国については猶更で、空腹の国民を押しつつ飛翔体を飛ばしてくるエキセントリックな独裁国、以上のイメージを我々は持ち合わせていない。日本と逆側の隣人との関係や現状について、韓国側の視点で語られる機会はなかなか得難い。本作は数少ない機会であった。中止は損失である。

 

⑦A01_ドラ・ガルシア《ロミオ(THE ROMEOS)》:ステートメント掲示

◆8/3時点

愛知芸術文化センターの8F、10Fで不定期に展開されるパフォーマンス作品。この甘いマスクの男性らが会場内に紛れ込み、観客とコミュニケーションをとってくれるらしい。いつどこで出会えるかは不明で、会場のあちこちに「THE ROMEOS」と書かれたこのポスターが謎めいた期待感を抱かせる。

『このポスターの登場人物に、あなたは会場内で出会うかもしれません。彼らは会場内を時々歩き回り、来場者に礼儀正しく話しかけ、会話を楽しんだり一緒の時間を過ごしたりします。』

 

◆8/29~現在

いけめん衆がステートメントで覆われている。全てのポスターがこのようになっていた。なお、本作品の変更点はこのようにドラ・ガルシアがアーティストらと声明文を出し、ポスターの上からそれを貼っただけで、いけめん衆による偶然の出会いのアクション自体は、今も継続されているとのことだ。

 

邪気を消したら会えるのかな。一生無理や。

 

 ( ´ - ` ) (2)へ続く。

 

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