nekoSLASH

ねこが超です。主に関西の写真・アート展示のレポート・私見を綴ります。

【写真展/KG+SQUARE】(後編)<2F>㊿ジュリアン・レヴィ、(S2) IWPAスペシャル展示 、<3F>㊼イルデフォンソ・コラッソ、シラッセ・サロモーネ、㊽フォスター・ミックリー、㊿KG+ PHOTOBOOK FAIR、アジアにおける写真集の動向展

【KG+SQUARE】後編、2F途中から3F「KG+フォトブックフェア」までレポです。

KG+の写真展示をビルに集めただけでなく、4日間限定ながら写真集・ZINEの即売会が催されるなど、独自色のある会場となっていた。楽しかったなー。写真界隈の祭りがもっとこうなんか広がっていったらいいんですけど。みんな写真集読もうで。

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はいじゃあ2Fの途中からいくよ。

 

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◆【KG+】㊿ジュリアン・レヴィ《NO ONE IS HERE FOR YOU》

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展示は映像作品のみ。暗く小さな和室に流れる都会と、スタイリッシュな女性。東京か。東京だなこのセンスは。東京はおしゃれなんだよ。おしゃれだと東京なんだよ。この対応関係は如何ともし難く、地方在住者の眼には眩しい。

とにかく「写真」というより「止まったショートムービー」の感がある。動きがある絵であり、逆に言えば光の透過と美女だけがある写真だ。実際に作者は写真家のみならず映画監督として(だけでなく文筆家などマルチに)も活躍している。映画の眼ということか。

 

今回の出展作は、リブロアルテ社から写真集として売られている。

 

また、galleryMainで10/5(火)~10/17(日)、【KG+】プログラムとして同名の写真展が催されている。

今が旬な感じですね。

 

会場では特に解説等も無くて分からなかったのだが(見落としていた?)、本作は2020年・新型コロナ禍の東京を舞台とし、そこに生きる若手クリエイターやアーティストを被写体としたもので、繊細な感情を描き出すシリーズだという。道理で顔の造形が整っているし、撮られ慣れたポージングだったわけだ。

しかし「新型コロナ禍」と言われると、やはり小原一真《空白を埋める》の静かな衝撃と比較してしまう。本作の登場人物はどこまでも演技的で美しすぎ、それゆえに私は入り込めなかった。生の写真で見たら印象は変わるかもしれない。

 

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本展示は石上和弘の木畳とのコラボレーションになっている。ハチの巣のような畳?座布団?が印象的だが、これに座ったり乗ったりしてよかったのか、良いとしても連なっているから座りにくそうだとか、なんか扱いに困って端の畳に座ってました。ハチの巣だなあ。

 

 

◆【KG+】(S2) IWPA スペシャル展示

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この一角はグループ展で、IWPA(国際女性写真家協会)の2020年アワード、全80か国、650点の応募作品から選ばれたファイナリストを紹介する。

IWPAは男女のジェンダーギャップの問題を提起し、女性写真家の活動を支持して女性の声を届けることに取り組んでいるという。

『今、ビジュアル・ストーリーテラーとしての女性の作品を紹介することが、これまで以上に重要になっています。新型コロナのパンデミックタリバン政権の復活などの危機的状況の中で、家庭、教育、仕事などで最も大きな打撃を受けるのは、常に女性です。』

 

1枚ずつが簡素に置かれているが、その情報量は深く、個々の写真とその背景、社会問題に踏み込むと日が暮れたり夜が明けたりするので、ここでは割愛する。いずれも世界各地で過酷な状況にある人物、性的に搾取される女性の実態、異議申し立てや、その中でもポジティヴに生きる人物の日常など、様々な観点から写真を提示している。これはこれで広い会場でファイナリスト特集をしてくれても十分見ごたえがあると思うし、世界各地で女性がどんな状況に置かれているか、それに抗する声と眼がいかようであるかを学べると思う。

 

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ネジャナ・フォン・ビューディンゲン《ソフィーとの出会い》シリーズ。

ダウン症ティーンエイジャー・ソフィーの日常、母との関係、恋のようす。

私が小~中学校の頃って、学年に1人はダウン症の子がいたし、町中でも目にしたのだが、存在自体を見たり聞いたりしなくなった感がある。出生前診断の普及ゆえ? でも誇らしく生きているソフィーの姿はいいなと思った。

 

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タマラ・エックハルト《キャロウブラウンの子供たち》シリーズ。

アイルランドの大きなマイノリティ集団「トラベラー」の子供らを取り上げている。調べてみると、定住せず移動して不安定な暮らしを送る集団(近年は都市部で定住するトラベラーが多い)で、広義ではロマの一つに数えられる。

 

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アナ・マリア・アレヴァロ・ゴセン《永遠の日々》シリーズ。

ベネズエラの予防拘置所や刑務所にいる女性たちの姿を捉える。最も印象的な1枚だった。外の社会から切り離す檻は、あるいは祈りの十字を思わせる。数千人の女性が、数か月~数年にわたって家族から切り離されている。施設はとても混雑し、不衛生で感染症、栄養失調の恐れがある。

 

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会場が写真展示用の部屋ではなく、普通の額装でガチな写真を置くと、なんだか残念な風体になってしまうが、写真家らのプロフィールとテーマを読んでいると部屋の事は忘れてしまっていた。

 

ファイナリストの作品はこちらから見ることが出来る。複数枚ずつ提示されていて、より一層それぞれのテーマに深入りできて面白い。これ生で会場で観たいなあ。

iwpa.fr

 

 

<3F>

 

◆【KG+】㊽ファスター・ミックリー(Foster Mickey)《3階の1の部屋、銀行の窓》

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6人のスタッフがこの部屋をオフィスとして使っていました。

その銀行員は4つの蛍光灯の下で働いていました。

 

私は、ある京都の銀行員に尋ねました

「なぜ窓の外を見るのですか」

「白昼夢が見たいからです」

 

そうして窓から見える景色などをポラロイドで持ってきた、白昼夢の混ざった空間がこの会場だという。

 

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外からの光を受けて白く光る床と壁、冷たい一室の床に敷かれた花柄のランチョンマット?ナフキン?と、レンガのような風合いに塗られたポラロイドカメラ。まるでオフィス茶道のように儀式である。並ぶポラロイド写真は乳白色に混濁している。何をどうやって撮ったんだろう。この不確かな像が「白昼夢」か。

 

あと窓際に写真が並び、窓からの風景と写真が呼応している。

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すぐ隣が東本願寺で、景色がいい。緑と庭園が見える。これを見ながら仕事できるなんて、EQが上がりそうな職場じゃありませんか。

 

 

◆【KG+】㊼イルデフォンソ・コラッソ(Ildefonso Colaco)、シラッセ・サロモーネ(Silasse Salomone)《扉(PORTA)》

モザンビークの写真家2人の展示、赤い屋台の台のようなハリボテの内側では、現地の映像がBGMとともに流れる。「family matters fundraiser(家族問題 募金活動)」、「catchupa factory」というプロジェクト名のチラシが周囲に貼ってあり、動画の意味は分からなかったが、モザンビークという国の抱える多すぎる問題の一つとして「家族」、子どもの教育や貧困その他が山積みであることは察せられた。

 

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会場説明文から引用しよう。

モザンビークは1975年にポルトガルから独立した国である。内戦(1977-1992)で100万人以上が命を落とし、停戦後は深刻な地雷汚染で苦しんだ。最近では北部の村々をイスラム過激派武装勢力が襲撃する事件が相次ぎ、70万人以上が避難を余儀なくされた。世界最貧10か国のひとつに数えられ、エイズマラリアといった感染症がまん延することもあり、国民の平均年齢は17歳と若い(日本は48歳)。

 

( ´ ¬`) 地獄やないか。

 

「親ガチャ」という言葉が今の若者の価値観をよく現わしていると話題になったが、最終形態は「母国ガチャ」になるのだろう。まあ平安、鎌倉時代の日本の平民もそんな感じだったのだろうか、などと言葉遊びをしていても仕方がない、写真を見ましょう。

しかし写真には負のイメージ、悲惨な光景はない。写真だけを観たらそのファッショナブルさ、人物と背景の取り合わせや、建物の撮り方などに西欧の撮り方のトレースを感じる。最貧国という言葉のイメージと写真とは容易に結び付かなかった。

 

正直、どの写真がどちらの作者かは会場で分別しづらかったが、大別するとカラーのポートレイトと街の光景と、コントラストの薄いモノクロの漁業・漁村のスナップがあり、前者がイルデフォンソ・コラッソの作品、後者がシラッセ・サロモーネがアフリカ北西沖の島しょ国・カーボベルデ共和国で撮影した作品だ。

 

写真の内側に入っていくところまではいかなかった。モザンビークおよび作家の追ったテーマの前提条件をこちらが引き受けきれていない印象があり、そこがKG本体プログラム⑨ンガディ・スマート《多様な世界》のステートメントとテーマ展開の分かりやすさとの違いでもあった。

 

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◆【KG+】㊿KG+ PHOTOBOOK FAIR 2021

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9/17(金)~9/20(月)の4日間限定で催されたブックフェア。17の出版社、書店、印刷所がブースを出しての即売会。これが【KG+SQUARE】の目当てでした。

 

普段、私が未知の新しい、マイナーな写真集やZINEを買う時は、ほぼ各店舗のWebサイトから、セールの時などに思い切ってポチポチと勢いでまとめ買いです。たまに中身を紹介するページがあったりしますが、サイズ感や質感はやはり実際に手元にブツが来るまで分からないものです。

しかも買っても、別に写真集愛読者というわけではなく、調べ物をするときに参照したい、その参照幅を手広く持っておきたいという動機なので、買ったきりになっている写真集も実に多い・・・。わりとドライな動機です。そんな私ゆえに、直に作品を確認したり、セールスポイントを説明してもらうと、その写真集と少しは親密な関係になれる。ゆえにブックフェアは良いなあと思います。

 

( ´ ¬`) 2時間ぐらい使った気が

 

時間が吹っ飛びました。ラインナップはこちら。

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1ブース10分で回っても170分ですからね。1日遊べますよ。

さすがに絞り込んで回りました。

 

赤々舎さんで石川竜一『いのちのうちがわ』、深瀬昌久『サスケ』を見せてもらって丹念にめくってました。『いのちのうちがわ』を生で見られたのは幸いでした。懇切丁寧に接客していただいて感謝です。動物の獲れたての内蔵が実に美味そうだし、写真のクオリティが高いので、本当にこのまま額装して作品として飾れる。


写々者さんはいつもオンラインでバカスカ買ってるので、ダダッと確認だけしておく。どうせまた狂ったように買うと思うので・・・ 

道音舎さんは初めて知った。紀伊半島を拠点としたレーベルで、和歌山に由来のある写真家の写真集が出ていた。へえーー。地域に密着した写真家の特集というのは面白い切り口。地酒みたいでいいですね。

 

crevasseさんは活きの良い新進気鋭のZINEを次々と出している。とにかく手元の作品を何らかの形にしようとしている人には、すごく参考になるはず。安いから試し買いがしやすい。個性が豊か。原石の力というか、一般受けしないだろうし、写真史的な位置付けとか学術的評価と別のところで活発に何か生み出されてるのがたまりません。


で見たら見覚えのある白い作業着(?)、作家の東地雄一郎さんがいてはったんですよ。

ちょうど前日に「ブックカッティング for mountain」=「自分の写真集『mountain』を真っ二つに切断する」というブチ切れた(誉め言葉)パフォーマンスをしていたところで、そのようすはこちら。

 

 

そもそもの写真集『mountain』「富士山の写真のコピーを2000回コピーする」という、問いに満ち満ちた行為であり、行為の形で提示した思考であり、答えのない試行であって、これはもうご本人に頑張って邁進していただくしかない探求領域なのであります。1年前にトークをしました。楽しかったですね。

 

 

crevasseさんのブースでは、切りたてほやほやの写真集の束が置いてあり、その束の断面をコピーした1枚が「作品」として売られていました。作品とは何か。問いが作品である。

 

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いやもうすごい。「コピー」と「原本」の無限ループ構造が面白い。産卵場所を見つけられない鮭の川上りを見ている気分。

 

 

◆【KG+】㊿アジアにおける写真集の動向展

フォトブックフェア関連展示として、東南アジアにおける写真集関連の出版レーベル、ブックフェア、アートスペースがMAPとともに紹介されている。40以上のスポットが紹介され、中国、韓国、台湾の情報量が豊富だ。

私は海外の写真シーンを知らない、というか海外自体に2008年以来行ってないので、非常に参考になった。海外苦手なんすよ。チップとかスリとかめんどくさくて泣く。

 

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こんな感じで1スポットずつの紹介文があり、これ本当に凄いんですが、これは一過性の展示ではなく、誰かデータベースとしてWebに置いておいてほしいなあああ。コロナ以降の海外渡航復活で、旅先の選択肢として考慮する人とか、少ないながらいるのでは。特に写真系の学校に通っている人などは重宝するのでは。

一応可能な限り写真には撮っておいたが、紙でバサバサめくるのは割と見づらい。。

 

また、こうした国の写真家、出版社から出された写真集も現物で紹介されていて、これもボリュームがかなりあって面白い。もう時間と体力がなかったので、あまり鑑賞に手が回っていないが、これも展示だけで終わるのが惜しい。いいデータベース。

 

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Web化がどれだけ進んでも、本、写真集はどこまでもブツとしてのハードが全てなんだなと、手に取って実感した。しかし本屋の棚に背中向けて並んでいたら、重くて手に取るのもめんどくさくて、ちゃんと見たりしないだろう。ビニル包装されてますしね。そしてやはり自分には、日本語での解説が不可欠で、それがないとちょっとページめくっただけでは価値判断が出来ない。ほんとに海外の写真家知らないんで。

けっこう懇切丁寧に紹介されないと、私はまだまだ写真集のことが分からない。だからこういう展示・イベントは重要です。もっぺん観に行こうかなあ??? 嗚呼、

 

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あーーー面白いですね。中国、韓国の写真家の方が「身体」や「自己」の投げ込み方、手放し方が激しい感じがしますが、身体を扱っての主張・表現にどんなプラグマティズムが働いているのかは純粋に知りたいところです。撮られる側に犠牲を強いるのではなく、撮る側が何かを存在の根底から支払っている。

 

何がどう見どころで面白いかのガイドが付くと一気に面白さがわかる。いやそれ私がやらなあかんことやろと思うんですが、私も確かなガイドに導かれて旅する妙味を味わいたいんです、中国や韓国の現地のこと作家のこと何も知らないので、こう、おほほ。

こう、国立民族学博物館みたいな感じで、写真集博物館が出来たら良いですね。原本だと傷むからVRとか模造品でフリー閲覧可能にして。

 

という感じで面白かったです。もっぺんこのコーナーは観たいなあ。

 

あっ。【KG+】㊾「子ども写真コンクール」は見たけど時間の限界でサーッと通過しました(><)

 

 

( ´ - ` ) 完。