【写真展】2019.1/13_時本玄「いのち育む農業高校」@ふく蔵ギャラリー & 加西市・加東市散策
H31.1/5~20の期間で、写真表現大学に所属する時本玄 氏が個展を開催しており、播磨地方の視察も兼ねて行ってきました。今回は地元の加西市で、酒蔵「富久錦」(ふくにしき)が運営するフラグシップ店「ふく蔵」内のギャラリーでの再展示です。
展示内容は前回、H30.8月のものと同じです。
前回の夏の展示会場が、兵庫県民会館の展示室という非常にオーソドックス(地味)な空間だったのに対して、今回は、元・酒蔵を改造した和の空間。地元からの要望の声があり、このたび、改めて加西市内で2週間ほどのカムバック展示と相成ったそうで、たいへん喜ばしいことです。
和です。白い煙突と黒い瓦。素敵です。
和です。素敵です。存在感です。
雰囲気があります。素敵。羨ましい。
しかし「会場がすこぶるいい感じ」というのは、作家にとっては逆にえぐい負荷がかかります。KYOTOGRAPHIEが毎年すごい&難しいなと思うのは、まさにこういうところで、和の空間で写真作品を展示するというのはわりと離れ業が必要になる気がしています。
「ふく蔵」に入ると、ショップが手前にあり、天井が高く、2階は食事処となっています。酒や醤油や米が並び、酒が並び、酒が並んでおり、写真には写っていませんが左右にも酒が並んでおり、目に毒です。常人なら加西市まで車で来ると思いますが、酒の誘惑があり、「ああっ下戸の知人をドライバー代わりに連れてこればよかった」と後悔することでしょう。しました。
これは高級酒で、「瑞福」とか「神代の舞」といい、720mlで2,400~3,500円ぐらいします。安いな。通常品が1,500円弱なので倍、言うても安いな。通常品を2本買いました。クセがなくてやたら飲みやすい。万能系です。
酒の話もいいんですが、展示、
肝心の展示ですが、時本さんご本人もかなり苦慮されたようで、やはり会場が手強いです。
こう見るとあまり違和感がないな。我ながらうまく撮れた。
しかし、ギャラリーと言っても、机と椅子が多く、憩いのスペースに近い空間となっている。そして両側の壁面が大きな窓を挟んで立っているため、展示の流れが断ち切られる。ここに写っているフロア真ん中の壁も、大きな机と椅子によって流れを断ち切られている。壁という壁が連続性を持っていないのです。ああなんということでしょう。
そして更に、壁面の白い部分は釘が打てない。梁の柱部を使うことになる。それでは細かい作品が展示できないので、釘を打つための木材を掛けわたしてそこに作品を掛けていくことになる。
壁面の離れっぷり、作品の掛けにくさ、鑑賞に不要なもの(冷暖房機や机や椅子)によって、展示のストーリーがぶった切られるという難しさがあります。なんちゅうとこに冷暖房機置いてあるんや。鑑賞していくと、けっこう「?」「何の展示やっけ?」となってしまう恐ろしさ。
前回の展示設営はかなりの時間を要しましたが、今回はそれ以上に大変だったらしく、ゆうに4時間はかかったとのこと。きつい…。
( >_<) 想像するだけで「ウッ」てなります。
考えられる方策は、「まとまりがあるようで無い壁面を、シームレスに埋められるぐらい大きな作品で空間を満たす」とか、「スクリーンを垂らしたり、巻物のようなものを掛け渡して、壁に近いものを作り出す」、「椅子やテーブルをどけて鑑賞者がスペース内を歩き回れるようにし、衝立を増設して壁面を増やす」といった、会場自体を変える作戦です。
しかし会場側の指定もあるだろうし、そもそも作家の企画優先のスペースではなく、スペースありきで利用者がその規定に合わせなさいという仕組みかも知れないので、わかりません。
シルバーフレームと白マットという定番・安パイの組み合わせも、和の空間では手強い結果となります。和!一見お洒落だけど、すこぶるてごわい和。
一見優しくて大らかに見えて、実は主張がものすごく強い。
お金はかかるかも知れないけど、黒~こげ茶のウッドフレームだと雰囲気はかなり変わったかも? あるいは、フレームなし。白いマットが壁面と合うかどうか問題がありますでね。銀鼠とか淡水とか、少し色の入ったマットを試すと良いのかな。
なので、凝りたい人にはたまらない空間だと思うのですが、真面目に手堅く、とにかくセオリー通りにやることを最優先で考える時本さんとか、私のような人間(※筆者はめちゃくちゃ保守的です)には、試練たっぷりです。酒のんでひっくりかえっていたいものです。
巨大な抽象絵画とかは合いそう。タタミぐらい大きくしましてね。サイズが正義なのだ、映像はサイズだ、とか何とか言いながら。バーンと「面」として貼り出してしまえば。しかし農業高校の生徒さんの写真をタタミぐらい大きく伸ばすも何か変ですしね。いいのかな。いやー、
この写真の趣旨がアートじゃない(地元写真館のカメラマンとして、学校の卒アル制作業を請け負った中で撮影されたもの)から、「アート」として鑑賞するためのフォーマットを組み込んだ撮り方には、なっていないんですよね。じゃあアートって何やねんと、それはもう永遠の命題ですが、鑑賞者と作品という、「見る・見られる」の関係性を問うたり構築する行為と言いましょうか。写真作品となると更に「撮る・撮られる」の関係も加わってきて、その3次元的な構造から、作家の設定したテーマについての物語なり論考なりが進められてゆく。本作は、そういうものと違うところで撮られたものであると。
だからサイズとしてはこのぐらい、A3~A2が見ていて落ち着きます。
となるとA2~A1ぐらいで、マットなし、黒いウッドフレームで、展示点数を1/3ぐらいに絞り込んで、あとはプロジェクター映像でばらばら見せるとか。
いや難しいす。先輩これ難しいす。
( >_<) ほんとお疲れさまでした。
先輩ごはん食いましょうごはん。
すんません。写真が全然美味しそうじゃない。「ふく蔵」さんをディスってるわけじゃない。ちがうんだ。もっと美味しそうなんですよ。色が死んでいる。昼ご飯を食べました。アナゴさんです。1,800円。
アナゴさんの印象は全然無かったですが、酒蔵だけあって、粕汁がすこぶる良かった。顔の見える味がしました。黒豆も地味にかなり味が濃厚でした。伏兵が強い。
展示設営がしんどかった等の話を聴きつつ、話はいつしか加西のまちの話題になり、5月には市長選挙があるんですねとか、候補者が云々。どこも色々ありますなあ。国から交付税をもらいましょう。
さて会場に来る前に、本展示の舞台となった「兵庫県立播磨農業高校」の外観や立地を下見に行ってきました。
なんか元・陸軍の施設かなと思うような広さです。手前の田畑のせいでそう見えるだけではなく、その奥にも敷地が続いています。周囲はこんな感じで、まっ平な土地と空に囲まれています。大阪・梅田では考えられない世界観です。空だあ。空があるんやああ。
校門ですが、学校お馴染みの「部外者の立入禁止」等の看板や監視カメラがありません。これは軽いカルチャーショック。開放感がすごい。なんでも農作物などを一般向けに販売する日もあり、校門の出入りはわりと自由なのだとか。
敷地がすごい広い。まさに食料増産基地です。かつて戦時中はそういう目的で農業高校を活用していた経緯があるとか。これ以上中には入れないので地図を見て想像で楽しみます。水田がいっぱいある。
これは農業、畜産を学ぶ学生にとっては、素晴らしい環境なのではないかと素人目にも思うところです。実際、農業高校でこの敷地の広さは全国でも北海道に次ぐレベルらしいです。これで学んだ末に、農業・畜産系の就職先が無いというのは、非常に残念なことです。AI農機具と外国人に農業やらせるのかなあ。後者はもう5年後には日本に寄り付かなくなってそうやけどなあ。自国民の働き口にならないのかなあ。どうなんかなあ。
周辺はこのような光景が360度取り囲んでいます。車の窓をあけると、家畜のかおりがします。正確には、牛糞の香りがします。これも大阪・梅田や難波には無い香りなので、「おおー」となります。遠くに見える構造物はサイロですかね? 地方、田舎にはよく撮影旅に出向いていたので、こういう光景を見ると「いいなあ」と思いますし、「日本やなあ」と感じます。あっ、これが「日本」の原風景っちゅうやつですかね。
ついでに時本さんのお店の写真館にもお邪魔します。
すこぶる懐かしい世界が保存されていて、なんていうか地味に感激です。あっ。これも「日本」の原風景ですかね。ですよね。
昔こういう個人経営の写真屋さんが、地元でもあっちこっちにあったですよ。フィルムよく買いに行ってました。今ほんとなくなったなー。店主が高齢で引退したり、カメラも家電量販店か通販で買いますわな。フジカラーの広告、鮮やかな緑色と観月ありさは、思春期に深く刻まれています。90年代に写真をやっていた者は、恋人の写真よりも観月ありさの顔を見る頻度が高かったと思います。どうかな。しらん。ねこがかわいい。
その後、地元の民の案内を受けて、加西市の中心街を歩いて少々撮り回ります。「北条鉄道」の北条駅の周囲、「イオンモール加西北条」がどかーんと立つあたりが市街地として栄えています。イオンモールは巨大で、加西の町の中で別格の存在です。播磨地域の旗艦店舗であることが分かります。その前身はジャスコで、更にそれ以前は三洋電機の発祥の地だったとwikiが言っています。
これだけ見ると都市じゃんて感じですが、都市っぽいのはこの北条駅周辺の施設とイオンモールぐらいで、少しくるまを走らせるとものすごく土と空と地平線が多いです。田畑とため池の町でした。なのでこれらの光景はかなり限定的なものだと思われます。まだまだ珍奇な施設などがないか、現地調査が必要です。
イオンモールがやたらと大きいため、町の中から夕日が沈むところは見えません。絶妙に都市化の影響を被っています。
隣の加東市にも足を延ばしてみたのですが、加西市よりも住宅街の度合いが強いものの、ベースは同じく田・畑が非常に多いです。
加東市のほうも、中心街のメイン商業施設はイオンです。イオン様・・・商店街の星々が息絶えた今、巨人たるあなた様の心臓が止まった暁には、民はいったいどうすればよろしいのでしょうか? 「知らん」。 はい。
なぜか加東市役所の周囲には、彫刻作品、オブジェめいたものが多くあり、変な魔力が漏れ出して暴走を招いているのではないかと危惧(期待)があります。良いことですね。あなたの税が召喚獣に使われます。加東市役所庁舎は、たいへん新しい建物です。平成25年12月に建つような基本計画書があったので、そのような動きをしたのでしょう。ぴかぴかしています。
加西市、加東市、そしてその周辺市町村、まだまだ全然足が運べておらず、謎が多いです。
人口が数万人規模、農業主体の地方都市は、根本的に大阪・梅田や神戸三宮、京都三条・四条などとは異なる特性、事情があり、むしろ普段自分が接している「都市」の方が例外的に大規模なのだとした上で、フラットな眼を持って接していくことが大事かなと思いました。かどがたたないように、もっともらしいことを言って〆にしたいと思います。
この日は「和」は厄介だという学びを得ました。うげー。
( ´ - ` ) 完。