【ART-写真展】「Moving Plants」渡邊耕一 @資生堂ギャラリー
H30.2/24
「イタドリ」という植物を追った写真家の写真展です。
タデ科の多年草植物、日本中どこにでも繁茂している「雑草」が、天下の資生堂ギャラリーで主役をつとめているという面白いことになっています。イタドリとは何なのか。銀座のど真ん中で雑草のことを想うのは新しい体験です。わあい。
渡邊氏の出身は、IMI研究所写真コース、私の通っている大阪国際メディア図書館「写真表現大学」 の前身にあたる組織で学ばれていたという経歴で、大先輩にあたります。うへえ。先輩パン買ってきましょうか。
身近に自生しすぎていて、どれがイタドリなのかを全く認識していないのですが、イタドリは「世界の侵略的外来種ワースト100」(国際自然保護連合)に認定されている、けっこう地球規模で厄介な存在です。ワースト仲間にはブラックバスやヌートリア、ヒアリが名を連ねていることからもなんとなくお察しです。
ギャラリー最奥の小部屋は撮影可能です。
本展示は、写真展という形態をとった、アートと植物学の融合と言えるでしょう。写真は大型カメラで丁寧にイタドリの生い茂る様子を捉えていて、その存在自体を否定したり、逆に過度に賞賛することはありません。しかし根底にはその生命力に対する肯定のまなざしがあります。ゆえに力強いイタドリの生き様には美しさが宿り、写真に作品としての価値をもたらしています。
しかし、展示を構成している写真と資料、テキストをたどって行くと、人為的に生物種を越境させることが招いた厄介な結果について、徐々に理解が促されます。様々な国の街角や空き地の写真が並べられ、まるで世界中の風景のベースレイヤーのようにイタドリが潜んでいることに気付かされると、何かまずいことになっているのではと感じさせられます。
このテキストは肝です。読むとイタドリがいかに世界で厄介な扱いになっているかがわかります。
19C、シーボルトが日本からヨーロッパに持ち帰り、観賞用として歓迎され、月日が流れ、人類を脅かす存在に育ちました。
2015年あたりのネットニュースでも話題になっていましたが、英国では
・よく育つ(高さ2mに達する)
・本体は地下茎 → 見えている部分を刈っても、何度でも再生(欠片からでも繁殖)
・天敵がいない → 天国
・繁殖力と生命力が強い → 道路、建物、防波堤、下水道などインフラを破壊
→「一掃するのに15億ポンドかかる」(約2000億円)、「駆除やインフラ補修費用に年間1.5億ポンドかかる」(約200億円)
生命科学技術で破壊的にデザインされたわけでもなく、ただ生えていた場所を移動させられただけで、このひどさです。生命とは一体なんでしょうか。セルとか魔人ブウ(DBZ)の驚異的な再生能力の元ネタかなと思ってしまった。だとしたら人類に勝ち目がない。わああ。
陸のブラックバスやん、と心の中でつぶやきます。日本では比較的地味に生えているものが、生息地を移されると爆発的に増殖する。どういう原理なのでしょうね。
渡邊氏の力のすごいところは、写真作品として美的さやクオリティを一定の水準に持っていくだけでなく、イタドリという植物の植生を調べ、世界にどのように繁殖してきたかの歴史を調べ、植物学者らが現在どのように取り組んでいるかをリサーチしている点です。イギリス、オランダ、ポーランド、アメリカでの取材・撮影を行ってきたとのこと。
展示に触れることでイタドリの見え方が変わり、認識が促されるので、これは科学博物館の自然コーナーで企画展やったらすごく合うと思います。
徹底して、自己の主観表現ではなく、科学的な視座から組まれた本展示は、写真というメディアのひとつの理想的な扱い方を見せてくれたと感じます。なかなかできることではございません。たぶん作者がイタドリにめちゃくちゃ取り憑かれた結果なんでしょうね・・・。
天敵のいないイタドリの駆除に手を焼いた英国は、日本の九州大学と組んで、日本における天敵:イタドリマダラキジラミを輸入することにしました。恐らくこの施設はその検証のようす。
面白かったです。
何が自然かと言われると、広義では今ある状態が自然なのであって、イタドリの側からすれば、ちやほやされた末に迷惑がられて、駆除の対象となり、そのために虫まで輸入されるという、なんやねんそれ感がすごいかもしれませんね。植物に自我がなくてよかった。
気分が高揚していたらしく、銀座です。
銀座という、日本のわりと歴史的なブランド地が、急速に訪日観光客のための土地としてリデザインされ、活き活きとしているのがだいたい外国人観光客であるというのが、なんとなく心情的にイタドリの話にリンクしました。まあちやほやしてもらえるうちが華です。売っていきましょう。
完。