nekoSLASH

ねこが超です。主に関西の写真・アート展示のレポート・私見を綴ります。

【写真展】R5.3/20~25 岩本啓志「ずれた視点」@ギャラリー白3

大阪ミナミの再開発事業を象徴する高層ビルあべのハルカスを題材にした作品、2回目の個展となる。

今回の特徴と良さは、これまで作りながらお蔵入りになっていた作品に改めて向き合い、自分なりに整理・構成して表に出したことに尽きる。

【会期】R5.3/20~3/25

 

 

ちょうど2年前に初回の個展「さえぎる風景」を発表した時、作者はまだ「大阪国際メディア図書館・写真表現大学」に生徒として在籍していた。

この時のセレクトは「あべのハルカス」というただただ一人だけ背の高い、極端で異様な建築物に対し、その周囲で営まれている地道で平らな生活景を合わせることで、シュールさと違和感のある風景を特集していた。

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言わば経済的シュールレアリスムというか、再開発事業の目玉、大阪経済復興の旗印として、極端な高さと形で打ち立てられた「あべのハルカス」という高層ビルが、平らなところで営まれている庶民の暮らしと地続きに断絶しながら並存している状況を伝えていた。

 

だが当時の展示は、セレクトや構成、コンセプトなど全てにおいて、作者が全て自力で考えたものではなかった。所属していた学校のゼミにおいて、講師(館長)と共に作り上げたものである。

これは学校の指導として「個展や写真集作成を成功させ、次の展開に繋げる」という狙いがあるため、在学中の活動についてはどの生徒も少なからず指導が入るのだ。また、毎年春先の卒展(本校は在籍期間が1年で、継続して在籍する場合も毎年卒業⇒入学を繰り返す)での出品作も、授業で綿密に練り上げていく方針をとっている。

 

短期間で「写真家」「作家」を育成して世に送り出すために編み出された教育プログラムであるが、作者にとっては、在校中は展示にうまく自分の意思を反映できなかった点が、強い不満となっていたようだ。

 

前回の展示から程なくして学校を卒業した作者は、改めて自分がこれまで撮り溜めてきた作品を全て振り返り、自分ならどういうセレクトをするかを再考して構成したという。結果、在学中にはセレクトから除外され、展示されなかった作品が並んだ。

特に大伸ばしにされた初期作品は印象深く、もう4年も5年も昔の授業のことなのに記憶に残っている。てっきり卒展で展示されていたと思っていたが、セレクトの最後の方で落とされてお蔵入りになったのだった。理由は「建物(ハルカス)がカッコよく写りすぎ」「手前に阻害物はあるが地味」「普通すぎる」などだ。

本展示ではそれらの写真がアクセントとして効いていて、面白みを感じた。「普通」なビル景、内部の光景の写真も併置されていたためかもしれない。あるいは、作者の原点を再確認できたことに意義があったのかもしれない。

 

撮影の最初期、つまり入学してテーマを模索していた時点では、都市部のビル群の中では、視界の中心物となる建物・見たいものの手前に、様々なものが無作為に割り込んでくるため、遠近感や配置が「書き割り」的なものになるが、それと作者が昔から関心のあったシュールレアリスムなどの美術的要素を結び付けられないか、という発見と仮説があった。ハルカス本体に電線や電柱、他のビルが干渉しているカットは、そうした造形的な狙いで撮られたものだ。

しかし撮影を重ねるにつれて、次第に撮影技術、構図作りなどが巧みになったことで、あべのハルカスを阻害していた雑景はそれ自体が内容を持つようになり、前回の個展のようにあべのハルカスと、その足元にある暮らしとの対比」という調査・ドキュメンタリー的なテーマへ発展していった。

 

本展示は一度、初心にあった造形的なテーマへの関心を掘り返すこととなった。だが写真・展示はまだ未分化の状態にあり(時計を逆巻いたのだから当然だが)、話していても、作者自身これからどうするかを決めかねていた。美術の原体験として「もの派」やミニマリズムなどに直撃して育った世代であるため、やはり都市景、高層ビルを「もの」へと還元したり、その形態の交錯を何とかしたいという動機が感じられたが、一方で「よい写真・よい作品」への迷いも大いに感じられた。

何かを表現するためには、テーマやスタイルを絞ることになる、つまり多くのものを捨てねばならない。全てを取り込むことも可能ではあるが、大作家の回顧展でもない限り難しい。

都市景の乱雑さを表すのか、あべのハルカスの異常さをドキュメントするのか、ハルカスを徹底的にモノ化するのか、都市景自体を人新世の産物たる彫刻と見なすのか。恐らく包括的な優しさを捨てて(岩本さんはたぶんとても優しい)、作品化するための冷徹な眼を導入する必要があるように感じた。

 

初期作品がパンチ効いてて良かったです◎

 

( ´ - ` )ノ 完。