nekoSLASH

ねこが超です。主に関西の写真・アート展示のレポート・私見を綴ります。

【写真展】R4.8/11「Nadar(ナダール)京都/大山崎」オープン / 8/11~9/20 藤井春日「迷子の森」

関西にまた新たな写真専門ギャラリーが登場。東京の南青山のギャラリー「Nadar(ナダール)」が、クラウドファンディングによって支援を募り、京都の大山崎に新店をオープンした。

オープン3日後、展示を訪れてみた。こんちは。

【会期】「旅展」R4.8/11~8/21 「迷子の森」R4.8/11~9/20

 

阪急の大山崎駅から高架下を歩いて15分弱、国道171号沿いの小さな工場か倉庫のような物件の1階にギャラリーはあった。

 

あっ、こういう感じでしたか。一見、倉庫っぽい。

なお、2階には劇団が入っているらしく、なんかやってる音がする。賑やかでいいですよ。

 

てっきり大山崎の駅のあたりにあると思い込んでいたが、思ったより離れていた。尤もこれまで、大山崎というと「大山崎山荘美術館」にしか用事がなく、土地勘がなくて不慣れだったためでもある。行ってるうちに道に慣れるのでは仮説。あと8月中旬の真夏の激烈な暑さと湿度で重い日射の中を歩いたので、体幹時間はもはや倍。ぎゃああ。

 

ちなみにJR山崎駅からだと15分強と、こちらも時間的にはあまり変わらないようだ。

 

駅からのアクセスについては、ホームページで詳細に紹介されている。

g-nadar.net

 

ギャラリー内は2フロア式で、手前がレンタルスペースで幅3m × 奥行き4mほど、奥が企画展スペースで幅3m × 奥行き2.2mほどで、カウンターと事務スペースが付随している。

 

この日はレンタルスペースで「旅展」が催されていた。1人1点、計18人が参加するグループ展である。(【会期】R4.8/11~8/21)

 

夏らしい、青空や緑の風景が、白い壁に映えていた。爽やかな企画だった。

残念ながら当の私が、いつまでも体温が下がらずハチャメチャに汗をかいては拭き続けていたので、爽やかとは程遠い状態だったが、写真は爽やかであった。

 

「旅」を象徴する写真として、青い空が頻出する、これはいかに日々のルーティン生活が青空から切り離されているかの反動であるように思う。

青い空が最も勢力を増している時間帯、私達の多くは仕事や学業のため、オフィス内、自宅内、教室内に拘束されており、あるいは車や交通機関での移動を強いられており、「空」を生身で体感する機会の多くを奪われているとも言える。社会の稼働時間と生産性の折り合いからそういうサイクルになったのだろうが、社会的なシステムのシェルターで青空から隔離され守られているからこそ、「旅」はそんな青空との接触を取り戻す機会であるように思った。

 

 

企画展スペースでは、藤井春日(はるひ)「迷子の森」展が展開されている。こちらの会期は9/20までとかなり余裕がある。

森の中で人物をスッと立たせ、計算された構成の中で月や星、鳥のオブジェなどを纏わせた写真群は、ファッション写真や映画のスチル写真を思わせる。調律が効いたフレームの中では、現実界とはまた別の時間が流れている。

 

作者の経歴も併せて見れば、コマーシャルフォトやムービー撮影も手掛けていて、自身の世界観を舞台演出的に設定することに長けていることは容易に分かる。

シュールな佇まい:現実的にはその場にないような出で立ちとシチュエーションで静かに立っている人物像には、やはり植田正治を想起させられる。砂丘ではなく、森の植田正治であるが。

 

砂丘ホリゾントとなる。だが森はどうか。確かに舞台装置たりえる。だが森はそれ自体が巨大で深い生き物であり、存在である。

足を進めるにつれて、シュールさや寓話的な光景ばかりではなく、森の中の自然景そのものも登場する。本作のベースにあるのは「森」や「山」の存在感だと気付く。

写真の色味はややくすんだ緑が掛かっていて、森が写真の中に溢れている。人物らは個々人の属性や私情を手放し、「森」の住人としての表情を浮かべている。ここでの主体は「森」なのだ。擬人化とまでは言わないにしても、本作は「森」というものの深く、大きな、魅力と影と謎に満ちた存在感を、人物を動員して表現していると思った。

 

 

www.kusamakurasha.com

 

また、作者は写真家として撮影をするだけでなく、長野県の八ヶ岳の近くに「草枕社」という出版社を立ち上げ、写真集や絵本をリリースしている。山や森は寓話の世界などではなく、作者にとって本質的なリアルの世界なのかもしれない。

 

後半の、冬の森の凍てついた表情を見ると、リアルの強さをより感じる。聖なる神秘的な世界観はもちろん寓話の世界を思わせるのだが、その純度は裏腹に、山や森が持つ素の力、何者をも寄せ付けない厳しい力を伝えてくる。そうしたリアリティが本作にはあると感じた。

 

 

( ´ - ` ) 完。