写遊百珍

大阪国際メディア図書館「写真表現大学」研究ゼミ生・TA。各種講座のレポや、関西・東京の写真展、アート展示を特集。

【映画】R2.5/28_「アリ地獄天国」(監督:土屋トカチ)@シアターセブン

理不尽極まりないブラック企業に対する、異議申し立ての闘いを記録したドキュメンタリー映画である。また、この映画を作って世に出すこと自体が、同じような労働者搾取を孕んだ社会全体に対する闘い、問いかけとなっている。

 

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※ねたばれが凄いので注意してください。

 

 

「とんでもないものを観てもうた」という衝撃を受けた。

 

 

この20年ほどの間に、多くはないが少なくもない本数の映画を見てきたが、現実社会が物語を凌駕する様を、改めて目の当たりにした。

 

それは「ひどさ」の点において、想像やフィクションを超えていた。

 

本作はドキュメンタリーのど真ん中。30代半ばの元・営業職の男性(作中では「西村さん(仮名)」で登場)の身に降りかかった理不尽な仕打ちを巡り、勤務先である某ブラック企業との3年間の労働闘争を記録したものだ。当然、社員個人で全国規模の企業と闘うことは困難なため、西村さん(仮)は個人で加入できる労働組合プレカリアートユニオン」に駆け込み、そこから長い闘いが始まる。

 

映画の告知フライヤーがポップなビジュアルなので、穏やかな作風かと勘違いしてしまった。例えば社員が内部通報制度を活用したら懲罰人事で冷や飯を食わされる生活になったとか、会社の経営上の判断から人減らし作戦で追い出し部屋に入れられたとか、そういう不条理な毎日を、淡々とコミカル混じりに写した作品だと想像していた。

 

違った。

 

なんていうか切迫度や悪質さの度合いが想像より何桁か違った。

社員に行使されるのは、手は出さないものの、陰湿な暴力そのものである。

 

 

 

ではこちらをご覧ください。

 


【お祭り】アリさんマークの引越社に抗議!その対応がまるでヤクザ!

 

これ副社長と本部長ですよ。

 

めっちゃ偉い人ですよ。

チンピラみたいな特攻かけてきてますが、尖兵ちゃいますよ、

経営幹部ですよ。

 

 

幹部自ら「足踏んだやろ」「足踏んだオラア」とヤカりにくるスタイル、

これは

これは一般の人の発想ではありませんね(確信) 。自分で体あてといて「骨折れた」「肩外れた」とか大声出す系のスタイル。「ああー・・・」「あっち側の方ですか」と納得せざるを得ない。経営層がこれって、組織自体があっち側のあれかと・・・思いますやんね。武富士的な。

 

この動画は2015年に録画され、YouTubeに上げるや否や話題となった。拡声器で組合員がワーワーしているのは、第1回目となる社屋前の労働争議活動であり、法的に認められた権利のため、いくら「けいさつ呼ぶぞオ”ラ”ァ」と凄んで見せても、止めることは出来ない。

この動画は世間の注目を集め、ブラック企業大賞2015にて「アリ得ないで賞」「WEB投票賞」を受賞した。残念ながらリアルタイムでは知らなかった。更に裁判の決着が着いた2017年には大賞を受賞している。実に2年にわたって話題になっていたことになる。見逃していたなあ。

 

映画の紹介文では「とある引越会社」と社名が伏せられているが、この動画のように、作中ではバンバン社名が出てくる。「アリさんマークの引越社」(正式名は「株式会社 引越社」)である。和解の条件として、映画内では副社長と本部長の顔にはモザイクが掛けられていたが、YouTubeにup済の動画ではご覧の通り、モロ出しである。うわあ。

 

 

事の発端は、2015年1月、西村さん(仮)が会社の車で追突事故を起こした際に、車の弁償費として48万円の支払いを命じられたことだ。

 

社内では当時(今どのように是正されているのかは分からないが)、強権的な社内規則により、従業員側に非常に不利益な制度がまかり通っていて、社用車を傷つけたら修理代は社員が持つ、引っ越し作業に使う道具を破損・紛失したら社員が支払う、家財に傷を付けたら社員が(略)、等々のトンデモぶりであった。無論、残業代も賃金に含まれているという扱いで、実質サービス残業。というか「完全成果主義なので、変動が大きすぎて毎月の給料がいくらか分からない」のだという。車の破損部分を白く塗って簡易対処した先輩社員が幹部から殴打されることもあったという。

このような制度に縛られ、社内で借金を重ね、サビ残生活から抜けられなくなる構図を、社員らは本作タイトルの通り「アリ地獄」と呼んでいた。

 

西村さん(仮)はこの48万円の支払いに一度は言われるがままサインするが、妻におかしいと指摘され(この時既に生活リズムもおかしくなっており、妻も身がもたないと感じていた)、前出のプレカリアートユニオンに相談に訪れる。

 

ユニオンの加入を理由に会社側は西村さん(仮)を営業職からカスタマーセンターみたいなところへ回され、更にその2か月後に「シュレッダー係」に配属になった。これは、廃棄書類をシュレッダーにかけ、裁断されたゴミを袋に詰めてビルの外に棄てにいくという業務である。一日それだけをやる。収入は半減。

 

不利益な異動命令に対して、2015年7月に会社を相手取って提訴。裁判を起こされると、会社はすぐに西村さん(仮)を懲戒解雇する。理由は情報漏洩など。しかも全国の支店に「罪状ペーパー」を貼り出す。これには西村さん(仮)の氏名と顔写真入りで、解雇理由とともに「一生を棒に振らないように」「皆さんもお気を付けください」といった、全社員向けの警告文が付されている。言うなれば見せしめの手配状だ。ここは治外法権独裁国家だったのですか。嗚呼。

 

 

それでは記念すべき1回目の団体交渉(組合交渉)のようすをごらんください。


パワハラの典型例!「アリさんマークの引越社」シュレッダー恫喝人事vs「組合があるから闘える」西村さん

 

( ´ - ` ) 何度見てもひどいな。

 

中村本部長「口臭いからもっと後ろいってください」「口臭いからもっと後ろいってください」

清水書記長「こっちを見なさい!」

中村本部長「み"な"さいて 誰に言うてんじゃオ"ン"ドレェ" おお↑↑↑??」

 

 

衝撃すよ。

組合側が当局を突きあげて「お前らなんやこんんな条件 通るとおもてんのか!」とわざと荒ぶることはあっても、当局側が「オンドレェ”コラア”」と机叩いてわめき散らす会社があるとは思いもしなかった。

 

だが、不利益な人事異動に対して裁判所の仮処分が出ると、会社は翌日、西村さん(仮)を「シュレッダー係」に復職させる。このへんの対応の速さが、ひどさを物語っている。「あ、これはワーワー言っても勝てないな」「法的には負ける」というところは、部分的にその場しのぎの対応をしてくる。あれっ既視感が・・・どっかの安倍政権みたいですね。はは。

 

この企業の酷さは、これだけではない。

ガラが悪いとか、横柄とか、パワハラ的というレベルではなく、根本的なところで間違っている。骨の髄まで何処を切っても黒い汁しか出てこない。擁護の余地が1ミリもないのだ。こんなに社名が知られている有名企業なのに、ここまで徹底的に黒いというのはどういうことなのか。 

 

黒い黒いというのは、具体的には書きにくいのでご覧ください。

 


「アリさんマークの引越社」と交渉中の組合員Aさん実母の葬儀中に怪文書が送付される!差出人は「元同僚」 会社しか知らないはずの実家と妻の実家住所に

  


「アリさんマークの引越社」は管理職研修で採用差別を指導 社員・元社員が角田取締役、井ノ口副社長の部落差別、国籍差別発言を証言する

 

 

( ´ - ` ) 文字にできねえよこれ 

 

「三つ」「四つ」といった差別語を、社内マナーとして知っておかないと、副社長に怒られる。「しってるか?」と確認されたときに怒られるどころか、管理職試験の際に知ってるかどうかを質問される。そんなあほな。

なので人事や上司が前もって差別後の意味を教育しておくという会社。そんなあほな。そんな冗談みたいな会社があるか。

 

あったんですね。

 

どないせえと。

 

西村さん(仮)の毎日向き合うシュレッダー職場の壁にも北朝鮮人は帰れ」という貼り紙を貼られる。いやもう。そんなあほな会社があるか。あったんですね。どないせえと。

裁判では副社長「そんな貼り紙があったとは知らない」とシラをきる。あかんぞ。

 

差別語に限らず、「社員3人以上で飲みにいってはいけない」「麻雀禁止」「BBQ禁止」など、えらく細かい所で社員を縛る規則があり、どれも私生活にまで踏み込んだ規制と読める内容であるため完璧にNG。幹部は独裁国家でも作りたかったのだろうか? 同じような話を英会話の会社でも聞いたことがある。社員同士で連絡先を交換するなとか。どうも独裁気質のあるトップは社員を分断させておきたいらしい。それ会社って言うのか。

 

更には、密告制度もある。社内規則に反したりした社員を通報すると、報奨金が貰えるのだという。そんなこと明文化しますか普通?? いやあもう。イタタタ。あかん観てて辛い。

 

 

勿論、この映画ではクソブラックで酷い企業の内情を告発したいのではなく、闘い方の事例を指南し、耐え忍んで心身を壊したり、死んだりしないための対応方法を提示している。

法廷闘争、東京都労働委員会への訴えなどを通じて、社会問題化しながら、具体的な処遇改善、和解金の勝ち取りを目指して粘り強く活動し、そして勝利する過程を記録している。その意味では、救いのある作品だ。

西村さん(仮)も、3年の闘争を経て、「シュレッダー係」から元の営業職へ復帰することが出来た。よかったよかった。

 

裁判の場で、シュレッダー係に転属させられ、何が辛かったかを尋ねられた西村さん(仮)は、答弁の途中で、自分が今までずっと押し殺してきた本当の気持ちに気付き、「会社に貢献してきたのに」と言葉にしたところで、号泣したという。

 

いやほんとひどい。

 

 

2017年の裁判で西村さん(仮)の件は和解し、会社側も社内規則などを改め、社用車や引っ越し道具を傷つけた際には会社の金で修繕するといった見直しを図ったという。現在、何がどう実際変わったのかは正直分かりませんが。

引越社のホームページでは、世間で有名になってしまったこれらの件について、かなり自覚的なWebレイアウトで記事を多数掲載し、かつてから生まれ変わっていることを強調している。が、映画やYouTubeで暴露された真の「黒さ」、体質や精神構造を考えると、この当たり障りのない文言は、「雰囲気」的なものとも見える。

 

www.movingbusiness-goodness.com

 

おっ副社長じゃないすか。

www.movingbusiness-goodness.com

 

例えば「環境破壊がひどい」「貧困を巡る状況がひどい」「原発を巡る利権がひどい」という「ひどさ」は、社会問題としてのフレームで理解や受け答えができるのだが、具体的ないち企業の、極めて具体的な経営幹部の言動、まともではない社内規則や慣例の一つ一つを紹介されるにつれて、怒りよりも無力感や恐怖を覚えてしまう。

個人ではどうしようもない。

 

監督:土屋トカチにとっては、この映画の制作・発表は、弔い合戦でもあったのだろう。土屋は西村さん(仮)に出会う前に、友人を失っている。職場でのいじめ、激務の末に、家族を残して自ら命を絶った。

本作中では、西村さん(仮)の取材の合間に、しばしばこの友人「山ちゃん」のエピソードが挿入される。

ラストは監督の、「もうこれ以上、死ぬな。殺すな。」という、切実な願い、託すような言葉で締め括られる。

 

 

一方で、「ブラック企業とか言ってる奴らがすごい嫌いで」という言葉を耳にする。個人の並外れた才覚・力で勝ち抜き、自分の名前で事業を回し、著書も出し、一定の規模のファン層を集められる「強者」にとっては、馬鹿げているのだろう。会社に異議申し立てをしている暇があるのなら、自分のように自立してマネタイズ方法を考えて起業でもすればいいのにという論調を繰り出す。

それも正解の一つだろう。だが生活のために、あるいは制度(法的にはあり得ないものであったとしても、組織内部では効力を発揮しているもの)のために、アリ地獄に捕まっている人は少なくないはずだ。「ブラックとか言ってる奴はバカ」という言説は、逆搾取のマーケティングとしては有効かも知れない(=そんな所にいないで、俺のセミナーに来たら自分で稼ぐための学びがあるよ的な)が、実生活上の何の救いにもならない。 

 

ブラック企業」という言葉の向こう側にある、支配や嫌がらせの実体、これは、こういうドキュメンタリー映像がなければ、うまく隠されていて、全く分からない。

なぜなら、想像を超えてひどいからだ。

想像を超えたひどいものに、どう立ち向かうのか、向き合うのかという命題を、全ての表現者は抱えていると思う。それは企業や経済に限ったことではない。さて、どうしましょうかね・・・。

 

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 ( ´ - ` ) 完。