写遊百珍

大阪国際メディア図書館「写真表現大学」研究ゼミ生&TA。各種講座のレポや、関西・東京の写真展、アート展示を特集。

【写真展】石川竜一「home work」@The Third Gallery Aya

【写真展】石川竜一「home work」@The Third Gallery Aya

以下は(展示との)会話である。

さあどうぞと自宅に招き入れられたが、とにかくひっきりなしにヘリが飛んでいる。「これは大変ですね」と言いそうになってやめた。プリンターが巨大ですねとだけ私は言った。

 

 

台所の流しや冷蔵庫や居間のバランスボールやテレビ、「ごく普通」な暮らし。へえ。普通っすね。冷蔵庫が白い。その間にもヘリは飛んでくる、しかも報道用ではなくて、戦闘用、プロの軍人が使うやつで、まず音が違った。

バババババ。重い。テレビ局が飛ばすやつは、トンボみたいなもので、石でも投げたら落ちてきそうに思う。軍用は違う。空を切り刻んで掻き混ぜる。バババババ。

いやこれはすごいですねと言うと、そうでもないよとばかりに、ヘリがまたやって来る。バババババ。違う、あんたに言ってない。バババババ。

 

窓を開けても閉めてもあまり変わらない。空気がやや重い。厚い。厚みがある。本州より気温が高いせいからかもしれない。台所や流し、食器棚をありありと見せてくれるからかもしれない。

 

DMやWebでの案内では、台所回りの写真が1枚あるだけだったので、ああ、家ですねと思った。日常ですね。じゃあ、お呼ばれしますね。それで、やってきた。そうしてお宅に上がり込むと、間もなくして、バババババ。バララララ。ララララララ。基地のことは分かりません。バババババ。けれど軍が飛んでくる。バラララララ。まるで鯉だ。

 

バラララララ。

 

バババババ。

 

こちらから階下の道や駐車場の通行人が見えているように、ヘリからもこちらのことは、よく見えているのだろうか。

 

「これ、よく、生活できますね」、紳士的な面持ちで言いそうになる。同時に、いや、ここで生活してはるやんと気付く。反射的に、言い澱む。

住宅すれすれに飛んでくるヘリに私の身体が身構えた、抵抗語が発せられたことを発見する。

いや。ヘリの日常的に飛び交う沖縄について口にしかけたこと自体に身構えた私の反射、抵抗語を発見する。これでよく生活できますね。大丈夫ですか。

 

大丈夫だよ。大丈夫なわけないだろ。

はい。 

 

お子さん結構大きいんですか。もうあんまりおもちゃ使ってないんじゃないですか、綺麗にしまってありますね。蔵書がけっこうありますね。写真集とか何持ってるんですか。見せてくださいよ。いっぱい持ってはるんでしょう。モニターなに使ってはるんですか。とか何とか。

 

少々暑い。

せっかくだしベランダ出たら。景色どう。

 

はい。

 

ガラッ。

 

巨大な巻貝の殻。植木鉢。街が見たわせる。

ベランダから見通すと空は綺麗で、青かったのが、雲がせり出して陰影が厚くなる。次第に夕焼けに染まって、それがとても色濃くて、一刻また一刻と、さすが南国と実感する。やはり離島で、溜め池が無いから、みんな屋上に給水タンクが付いている。球体と、瓦のない平らな家並みの 

 

バババババ。

 

またか。

バババババ。

 

いや呼んでないし。鯉かお前ら。

 

バババババ。

近い。家屋に近い。ひどく近い。

 

「当たる。当たりますって。」

大丈夫だよ多分。

バババババ。

いつもこうだから。

バババババ。

「大丈夫なんですか」

大丈夫じゃねえよ。学校に落ちたりしてるんだからさ。

はい。

 

大学にも落ちたことあるんだぞ。

はい。

 

 

ここがいつからこうなっているのか分からないが、バババババ、とにかくここは、バーババババババ、そういうことにバルルルルルル、なっているルルルルルル、うるさいから。鯉かお前ら。

 

ヴァーン。ンンンンン。 

空気を膨らませたような灼熱音も聴こえる。戦闘機も混ざっている。

 

洗濯物がよく乾いている。 

 

 

「あっ」「当たる」

セーフ。

「あんなのいつか誰かの家にヘリ当たりますよ」「大丈夫なんですかね」

 

大丈夫じゃねえよ。だから事故起きてんだよ。

 

はい。

 

それでもここでみんな暮らしてるんだよ。

 

はい。

 

大丈夫じゃねえよ。大丈夫だよ。

 

はい、

 

バババババ。

バラララララ。バルルルルルル。ギュラギュラギュラ。

えっ。戦車。

 

なんだTVか。いや、どっちだ、

TVの方か。

 

いや、そうなのか? どっちの話だ。

バババババ。

 

表裏一体だ。TVの向こうと、ベランダの向こうとは、私にとって薄皮一枚の、どちらも「フィクションな現実」だ。石川竜一の部屋だけが、私をそこに繋ぎ留めている。分厚い暮らしの風景、生活の手触りが、私をそこに繋ぎ留めている。

ババババババ。

 

「もうそろそろ帰ります」

いいけど、何処へ?

「えっ。いや、あっちへ」

あっちって何処へ? 

「いつもの、」

いつものって何処だよ、

「いやあのパソコン貸してください」

 

バババババ

 

えっ。

参ったことにパソコンの中まで軍用ヘリが轟音を響かせて飛んでいた。ブラウザどころか液晶自体を震わせて飛び回っている。ローターブレードが液晶を切り刻み、おかしな色が流出している。見えなかった体液が溢れ出るようにパソコンが変な色をしている。

「これ帰れないじゃないですか」「帰るってどこへ?」「いや僕の地元、」「地元って?」「関西、本州の」「それは何処」「日本ですよ」「じゃあここは?」「え?」「ここは何処なの?」「沖縄でしょうこれは」バババババ。「えっ?」「えっ?」

 

バババババ。

 

バババババ。

 

参った。

 

ええまあ。そうすね。

「帰るってどこへ?」

そうすね。

 

困った。

 

実際何も知らないんだ、と言うと、それならそれでも別に良いんじゃないかな、と、言われた、気がした。それで、私はもうしばらく、そこに居た。部屋の片隅のバランスボールが鉛の弾のように綺麗だった。

 

 その後、ヘリのブレードをすり抜けて、帰ってきた。

 

 

という話を(展示と)した。

私は沖縄のこと――政治的なこと、地元あるいはそれを取り巻く外部の複雑な事情、様々な人達の思惑、ポジショニングについては、なにも分からないですし、知るすべもありません。

複雑な関係者の、どの立場においてもそれぞれの正義や真実があり、その選択や斟酌は非常に難しく、それについて語ることはさらに難しいと言わざるを得ません。

ただ、石川竜一の写真は、ただ、そこに居合わせることを許してくれます。

なのでひととき、形のない会話めいたことをしました。

 

( ´ - ` ) 完。

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The Third Gallery Aya

2019年2月2日(土)-2月23日(土)
火曜-金曜 12:00–19:00  / 土曜 12:00–17:00
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