11/22(月)第17回 大阪ヨーロッパ映画祭(3)
(1)http://d.hatena.ne.jp/MAREOSIEV/20101120
(2)http://d.hatena.ne.jp/MAREOSIEV/20101121
まだまだ続きます。
そしてネタバレ激しいので、自分でこれから観ようという人は読まないほうが吉です。
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下からのエスカレーター&階段を上がってきたところが少し開けたフロアになっていて、ここで順番待ちをする。だが百人を超える人間をだらだら待たせるには少々手狭か。最優先で客入れするサポーター会員が優先的に案内される。一万円で何本でも映画が観られる上に、整理券いらずで、サイン会も先に並ばせてもらえる。
…おれに関しては9本観て、前売り3回券3千円を3枚買ったから、計9千円。
それならサポーターにしといても大して変わらなかったやん…。
何でも今年から始まったシステムらしい。整理券が不要なのはいいな。
まあ、一人二人で観に来る分には、80番台になっても余裕で場所が取れるんで特に困りません。
いうても大阪における混雑は東京の比ではなく穏やかなもの。
こういったものをいただいた。
誰かとつるんで来たかったがみんな出勤でした。
置いてあるTV画面に映し出される各映画の予告編を見ながら「ああ、そういえばそういうシーンもあったな」とか「こことそこをそうカットして繋げるのか!」「喜怒哀楽の各カテゴリーごとに数秒刻みでまとめるんやなあ」「予告と本編は全然違うよなあ」などと思いながら。
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『ソウル・キッチン』(英題『Soul Kitchen』)
2009/ドイツ 99分
単純に楽しい。
深く考えたり、感じ入ったりする映画ではなく、楽しい。波乱万丈ありつつ危機ありつつも、映画ならではのスピードとテンポの良さそして「そこでこう来るか!」という数奇な繋がりで明るく締め括られる作品。
これは普通にスカイビルやLOFTの地下でやってくれたらいいと思う。九条シネ・ヌーヴォではない。もっとメジャーな扱いを受けて良いだろう。
監督・脚本のファティ・アキン氏は2004年に『愛より強く』でベルリン金熊賞、2007年『そして、私たちは愛に帰る』でカンヌ最高脚本賞を、今作『ソウル・キッチン』で2009年ベネチア審査員特別賞を受賞している。先の2作品については恥ずかしながら観ていないが、ちゃんと日本でも上映されていた。
どちらの作品も、トルコ系ドイツ人である監督の体験をもとに、トルコとドイツの文化的接点、衝突点を踏まえながら、家族、愛、離別を描いている―らしい。イントロダクションを読む限り、多様なサウンドトラックの使い方にも定評がある。
今作では彼がジャンルをことごとく横断して繋いでいく音楽の楽しさ、映画そのものが音楽であるかのような爽快感のもとで物語を楽しむことができる。
予告編をちらっと見たときには、食堂(一応レストラン)の若きオーナー;ジノスが食事を中心としたヒューマンドラマを繰り広げるのだろうと思ったが、料理自体は構成要素の一つに過ぎなかった。ジノスの身辺で起きる出来事の数々が、トラブルの方が多いぐらいだが、リズミカルに描かれて流れていく。店とその地元を中心とした小さなコミュニティが舞台で、ドタバタに巻き込まれっ放しのジノスと、仮出所目前のダメ兄貴イリアス、土地転がしで地上げを目論む旧友ニューマン、クセのある職人気質のシェフ、出張先で浮気していた恋人のナディーン、後に重要な存在となってゆく整体師の女性(名前失念…)、家賃滞納のジジイ等々、楽しい面子が揃っている。
ジノスが一応主人公だが、真の主人公は「ソウル・キッチン」というレストランそのものである。ジノスの人生や歴史というものは語られず、すなわち監督ファティ・アキン氏のこれまで描いてきたテーマ性のようなものはほとんど見えない。ジノスの純粋さというか、主張やキャラの無さが絶妙。マンガのように次々に起きる波乱万丈の出来事を辿る媒体となって彼は機能し、物語の進行を引き受ける。
のっけから巨大な食洗機を無理矢理動かそうとして「ゴキッ」→強度腰痛。ギックリ腰というよりヘルニアだったようで、後にどんどん悪化するが、医療保険に加入していない彼は正規の治療を受けることができない。恋人の実家は金持ちだがその時点ではほぼ関係が立ち切れになっていて、ものすごい荒療治を受けて何とか治すことに。
ジノスに降りかかる災難はすさまじく、映画かマンガの主人公でなければ到底務まらない。恋人は中国に出張し、当初は一緒に来てくれると言ってたのに!と我儘を言うくせに途中から手のひらを返して歯切れ悪く、結局中国人の恋人を作って帰国してくる。それまで店の処分にさんざん悩んで苦労したジノス、乙。
その過程で、店を譲り受けることになった兄のイリアスが憎めないギャンブル狂のダメ人間だ。最初は刑務所から仮出所するために偽装雇用するよう調整してやっていたが、上記の中国行きを決意するに当たって店の権利を譲った後、狡猾な地上げ屋に賭けで根こそぎ持って行かれてしまう。
店自体の経営も当初から大変で、税務署からは滞納分をせっつかれ、レストランとしてはありえない衛生設備のため保健所から総ステンレス改修を迫られ、料理の刷新を図るべくシェフを雇えば彼の職人気質さゆえに馴染みの客を丸ごと失い・・・このあたり次々に何かしらアクシデントが続きながらも途中でかなりの成功を収めてゆく様子はやはり映画を実際に観て「楽しむ」ほかはない。個人的にはマキシマムで店が繁盛してゆく場面と、媚薬入りデザートで客全員が理性を失う場面、そして恋人を失って自失茫然となりキッチンでノートパソコンを燃やし始めるジノスの場面がGood!
地上げ屋から店の権利書を取り戻すべく、破天荒というか、映画やマンガでしか絶対にできない強行突破を挑むものの、腰痛のため全然ポリスから逃げられないジノスのヨチヨチ歩きに萌える。
エンターテイメントとしての完成度が高く、特にそれ以上言うことがない。
後は観て楽しむだけ…。
ハンブルグが舞台だが、こんな店があるなら行ってみたい。
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ホール入口の扉の前に、いつの間にか席が設けられていた。
同デザインA4チラシがテーブルに置かれていた。日付は空白になっていたが、「心斎橋シネマート」で上映予定らしい。そうこなくてはな。
・・・と、今(12/2)検索にかけてみたら、H23.1/22から全国で順次ロードショーということらしい。乞うご期待。
ラストはほっこり。
柔和でおっとりした印象のファティ・アキン氏だが、その真剣で深い眼差しは底が知れなかった。
ジノスの料理の腕とクオリティが上がっていき、頑固なシェフが去った後、最後は一人で作れるようになるあたりの成長ぶりも良い。
余談だがジノスを演じる俳優アダム・ボウスドウコスはハンブルグでレストランを経営していた経歴があり、監督とアダムは店で交流を深めていたという文脈もあったりする。