【ART】2010.8/21 生存のエシックス展
京都国立近代美術館に行ってきた。
「生存のエシックス」展というのをやっていて、国内の美術館には珍しいことだが、展示会場内では写真撮影可、メモ可という非常に気の利いたものだった。やった!
「存在のエシックス」展。コンビニでチラシ張ってました。
チラシいけてました。
いつも思うが、展示会場内のメモ禁止って意味わかりません。撮影はまだしもね。大麻規制みたいなもんかな。とりあえずそいういう禁止の歴史が培われたからそうしているという。欧米諸国の美術館のようになるにはまだまだ時間がかかるか…しかし昨今のビエンナーレ、トリエンナーレ的なアートフェスと、参加者のブログ、SNS、Twitterによる情報二次三次拡散の効果を考えれば、伝播に身を委ねるのが良いような気はするのだが。
展示の概要、コンセプトはこちらで。
京都国立近代美術館HP
http://www.momak.go.jp/Japanese/exhibitionArchive/2010/381.html
「認知症、自閉症の人々を対象とした作品経験の機会を設定し、芸術・鑑賞・教育と医療の意味を問う対話の場となることも計画しています。」のあたりがまさにパンチが効いていて、日頃、「正常」でブレのない「ノーマル」な私達の心身が認識する世界を、少し立ち位置を変えた所から見たり感じたりした際にはどのようになっているのかを科学的に見せてくれるプロジェクトだった。
知的好奇心を惹起された。
美術品だけでなく、こうした科学的・認知的アプローチも面白い。
では、毎度のように写真とともに。
初見では「なんだ、ただのインテリアの提案か…」と思ってしまった。
実は色々とテクノロジーが搭載されている。
植物の栄養分となるシートを敷いて、あとは定期的に水をやれば植物は根をシートに這わせて生存・成長できるらしい。
最初はそれが何か?と思ったが、
なるほどこういうシートだと、根が上から下に張るのではなく、シート表面に広がるようにして這ってゆき、
つまり天地上下が曖昧な状況でも植物がちゃんと育つ。
「宇宙庭」プロジェクト/JAXA「きぼう日本実験棟」
http://kibo.jaxa.jp/experiment/theme/first/epo_spacegarden.pdf
宇宙空間では全てのものが360度関係なくふよふよ浮いていて、植物の観賞どころではない。
だが植物を生やしたこいつを浮かしておれば、他のクルーを船内に招いたときでも、おもてなし→観賞→コミュニケーションや寛ぎが可能になるというのだ。化け物に見えなくもないが。
漆黒の宇宙空間に浮かぶ船内ではさぞ映えることだろうなあ。
ガラス容器の中に、嗅覚訓練を受けた蜂を入れる。管から人が呼気を吹き込むと、蜂がターゲットとすべき臭いを嗅ぎ分ける。主に肺がんや皮膚がん、糖尿病などの疾患ごとに特有な口臭が生じる。蜂には高度に発達した嗅覚があり、疾患の臭いを得るとエサを求めて診断スペースに入り込む。医療診断機器として使えますということ。
実用性云々よりもその着眼点が面白い。
動物ばかにできん。
蜂を入れて呼気を吹き込むアレ。
先進的な大学病院とか、我流の道をゆく個人診療所でちょこちょこ使ってみてもいいかも。
しかし大量生産されるまではこの容器がバカ高いんだろうな。
fNIRS(脳血流測定装置)で前頭葉の脳血流を測定し、光と音を被験者(観賞者)に与える。フィードバック式となっていて、「快=心地よい」とされる光と音のパターンの情報を得るとそのパターンを継続し、逆に「快」の情報が得られない場合には様々なパターンを模索して鑑賞者に与えるという。
面白いのだが、脳の中、理性や言葉の向こう側を探られているみたいでイヤかも…。
これで白い粉とかクリスタルを流しまくって被験者が過剰に快楽反応を示したら…。ううむ。酒井法子とかタカソーとかどうなるんだろうねえ。合掌。
安らげるような光のパターン、アンビエントな音が響く。
10年前のおれなら「このわしの情動で、機械を逆にぶち壊してやるのう!」とか言ってカフェイン乱打して測定に挑んだことであろう。
今は脳内を暴かれるのが怖いので撮るだけ撮ったら去ります。
そそくさ。
未来派新型エステだと思えばかっこいい。
おはだがまがりかどですねーいけませんねー 脳も曲がり角を曲がってますねーだめですねー
ハイ。
「未来の家政学・Tea House of Robots」
「トースター、ミキサー、ラジオなどアメリカ1950年代のキッチン用品がロボットに変身。壁は、鑑賞者の表情を認識し、スマイル度数に基づき振る舞いを変化させる。これは、我々、日本の瞑想的空間の対極にあるアクロバティックで喜劇的な茶室である。」
壁にモニターが付いていて、読み取られた我々の顔が笑顔認識機能によって情報としてこの幕の向こうにいる機械らに送られる。笑顔がちゃんとできていたらジャバラがばしゃっと空いて、ウィンウィンされて迎えられる。
「にー!」
こいつなんかむかつく…。
「遺伝子組み換え劇場」
クリティカル・アート・アンサンブル(CAE)の作品。生命科学など一部の分野においては特定の企業が専門技術や特権的な知を権利として独占しているが、それらの再配分を目指す。各種メディアを使用しての文化的抵抗を戦略的に行う人達。あの米国でそういうことを行うとたぶん穀物や遺伝子のメジャーな会社が黙ってないと思うのだが、実際黙っていなかった。
2004.5.11、主要メンバーであるスティーヴ・カ−ツ氏のパートナーが自宅で呼吸停止で発見されたのを期に、FBIは生物化学兵器製造の疑いで彼を逮捕。えっ。なにそれ。前から目をつけていて、いい機会が訪れたから介入してきたといった風情である。スティーヴ氏の無実が裁判で証明されたのが5年後の2009年9月。
周りのもの全てに怯え、過剰に防衛し攻撃し、自国が自国民にすら怯えているとマイケル・ムーアは米国人の文化と精神について指摘していたが、つい合わせて思い起こしてしまった。
「関係概念としての知覚的自己定位の研究」
自らも自閉症を抱える動物学者テンプル・グランディンが考案した各種のハグ系研究。
抱く、抱かれる、絞めつけられるといった身体感覚、関係の作用によって生み出される効果とは。
ここが重力のない宇宙空間であったなら、この精神が安定を欠き、過剰に反応したり或いは不安さに苛まれているとしたら、これらの研究には大いに見えてくる成果があるだろう。
微小重力環境の「ライナスの毛布 −Security Blanket−」試作群
不法投棄物アートではない。
JAXAと京都市立芸大が組んだ「宇宙への芸術的アプローチ」の一環。
宇宙のような微小重力下で生じる身体的レファレンス喪失感(レファレンス=参照)を補完するツールとして開発された。
じぶんというものを支えたり、この身体を身体として捉えるものが乏しい。
確かに抱き枕は有効かもしれん。
(*゜ー゜)まるで拷問機械だな…。
取扱説明書。
前方の対になったクッション部には足を通し、反対側にあるレバーを操作することで自分の最適な締め付け具合が得られるというのだ。
これで考案者テンプル・グランディン氏は自分の自閉症を治療したという。
もう何がなんだか・・・。
寒さで凍えているのではなく、「ライナスの毛布 −Security Blanket−」を御試し中。
通常重力下で被ったり抱いたりしても、気持ち良いだけなんよな。
その気持ち良さっていうのがミソなんでしょうな。宇宙って一体どんなところなんだ。
厭だな…。
ちなみに「ライナスの毛布」「Security Blanket」(安心毛布)というのは、漫画「ピーナッツ」(スヌーピーの出てくるアレ)に登場する男子ライナスが肌身離さず持っていることからそう呼ばれている。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AE%89%E5%BF%83%E6%AF%9B%E5%B8%83
それはまあいいとして、
∴身を縮めて中に入ると自閉症が治ったり宇宙空間で(ry
入りました。
足がつっかえてひいひい言うた。
「盲目のクライマー/ライナスの散歩」試作品
例の自閉症の動物学者テンプル・グランディンの大作。
でかい。
ワンフロア丸ごと占めている。
そして楽しかった!
太いベニヤ板のようなものが任意の三角形をポリゴン状に連結されて出来上がった、床面・壁面・天井面の区別を持たない多面体フィールド。どこからどう上って、どう攻めて、どう下りてきてもいい。傾斜はかなり急だが、勧められるがままに靴下も脱いで爬虫類のように張りついてみれば、おや、けっこう身体の感覚だけで何とかいけるじゃあありませんか。
ぺたぺた這いまわり、個人的に楽しんだ。
裏から見ると、柱が存在しない。
一度に上れる人間が5名に限定されているとはいえ、角の部分だけでバランスを保ち、重量を支え切るこの構造は凄い。
上面図(板・辺・頂点それぞれのナンバリングと線で結んだもの)を見たが、わけのわからんことになっていて、
たのしかった。
個人的に最も美しくて好きだったのがこちら。
これまたフロア一つをつぶす巨大作品、
とにかくでかい。写真では部分的な切り取りに終始したが、半径3mぐらいの円盤ステージが回転している。
ステージは2度の傾斜が付けられていて、支えられている二つの軸の回転運動により、日常的には体感することのない不思議な、波打つような微妙なる動きを感じる。
実際に歩いてみると多少、ふわつくというか、いつもの身体感覚からブレを起こし、無意識でそれを補正しようと色々身体が働いているのが少し分かった。面白い装置だ。
( ゚〜゚ )ノ いいぞいいぞ!
コンセプトが「宇宙滞在・認知症・庭園・発達障害の研究に基づくトポロジカルな時空と記憶形成の実験」なのに、
脳裏には今まで体感してきた様々な劇団の舞台が…。
ここで飛んだり跳ねたり声を出したりしたら面白そうだ。
扉が二つあり、カチャリと開けて通り抜けたりする。
ステージがぐるぐる回っている上に、投射される映像により、身体感覚が揺らぐ。
映像のパターンをどんどん切り替えたら無限に色んなフィールドを探索できそうだ。
小学生とか小さい子供を連れてきたら凄くハマるんじゃないだろうか。
新しい身体の可能性というか、未だ踏み入れたことのなかったズレへ、境界へと脳裏がぐらり。
(`へ´)ノ
高度なぐるぐるを体感したぜ・・・。
トポロジカルの意味なんてよくわかんねぇけど楽しかった!
完。